彼女は何を思ってこの場所を選んだのだろうか。
男――庵野イオは色とりどりの花で溢れた丘に一人で佇んでいた。片手には彼女が好きだった果実酒を持って、空を仰ぐ。深い青空に流れる白い雲と鼻をくすぐる花の香り。
彼女は魔女だった。それも年若く、本来長寿である魔女にしては遥かに短い一生しか生きられなかった魔女だ。
イオは丘の頂上で座り込むと果実酒の蓋を開けて、空に掲げる。もうここにはいない、彼女に向けて送るように瓶を傾けると一口飲む。それが舌の上を通り過ぎた時、イオは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
「こんなにまずい酒が好きなんて、本当に彼女は変わった魔女だ」
小さく呟いた声は誰にも拾われることはない。もしも彼女がここにいたのなら、理路整然と反対意見を述べていたことだろう。今にも彼女の声が聞こえてきそうなのに、隣には誰もいない。
「俺より先に行くなんて、親不孝もあったもんじゃないね」
血のつながった家族ではなかった。でも、本当の家族よりも濃く、強い繋がりでイオと彼女は結ばれていた。そういう繋がりもあるのだと、イオが彼女に教えたのだ。
そこで、イオは最初の疑問に立ち返る。
彼女と縁もゆかりもないこの場所を選んだのは、一体どんな理由があったのか。
「まぁ、それを解き明かすのが俺たちの仕事だよな」
果実酒を半分ほど飲み干したところでイオは立ち上がり丘を一望する。
ここに咲く花にはどんな花言葉があるのだろうか。この土地にはどんな逸話が残っているのだろうか。そして、何よりも、彼女と一体どんな繋がりがあったのだろうか。
その答えは、これまでの彼女の旅路をなぞることで自ずと見つかることだろう。
「さぁ、始めようか――弔い人の仕事を」
イオの呟きに呼応するように強い風が吹き上がり、花びらが舞い上がる。その花びらの行方を追いかけるように、イオはこれまでの彼女と歩んだ記録を読み解き始めた。



