目が覚めた。
私は部屋の机に突っ伏して、うたた寝していたらしい。
私は座ったまま、指先を見つめた。何も変わっていない、私の身体。
「……変な夢を見たなあ」
「夢じゃない、すみれ」
「ひぃ!?」
私は素っ頓狂な声を上げて、のけぞった。
いま、しゃべったのは、私。返事したのも、私。私なんだけど……。
「すみれ、大丈夫か?」
私の唇が勝手に動く。この声は……。
「優一……私のなかにいるの?」
「ああ、そうだ。心むき出しでいるのと、やっぱちがうな」
優一は深呼吸している。私の身体で。
「すみれ。煙草、吸ったことあるか?」
「ないよ。十七歳だから」
「そっか……俺の身体で吸う空気とちがう気がする。肺が綺麗だと、空気ってうまいんだな」
繰り返し、深呼吸をする優一を見ていると、なんだかおかしかった。
「俺……戻ってこられたんだな」
「そうだよ。ね、もっと新鮮な空気を吸おうよ」
私は立ち上がり、窓辺へ向かう。
空には、たくさんの星がきらめいていた。この部屋の窓を開けたのは久しぶりだ。
もう8月が終わるけれど、まだ夏の熱気を孕む夜。
「俺。死ぬとき、星になりたかった。星になれば、いろんな人のそばにいられる。もう俺は何もできなくても、みんなが笑ったり泣いたりするのを眺めていられる」
私は優一といっしょに、星空を眺めた。
「……そうなるんだったら、死ぬのも怖くないって思っていた。そうやって……最後の最後まで、命が終わろうとする、自分を慰めてた」
「優一。優一がしたかったこと、全部しようね。私、手伝ってあげるから」
もう……私は、ひとりじゃないんだ。
優一のために、私は生きる。
「すみれ。ありがとな……俺さ」
私の瞳には、涙があふれていた。この涙はきっと……。
「俺、がさつでだらしない奴だから、女の子といっしょになるなんて、気まずいっつーか、いけないことしているみたいでさ……すみれが目を覚ますまで、ごめん、ごめんって、何度も謝ってた」
「気にしないで。私が選んだの」
『女の子』と呼ばれて、くすぐったい。女の子扱いしてくれる年頃の男子と会話するのは、恥ずかしいというか照れてしまう。
「私ね。優一のためなら、何だってするよ」
優一の返事はない。
「……優一?」
「……すみれ。会ったばかりの奴を信用するなよ。俺は、すみれの身体を乗っ取った悪魔かもしれないぞ?」
「そんなこと、絶対にない。優一の心はきらきらしていて、すごく綺麗だったから」
「あれは選ばれるために、案内人のにいちゃんが、毎日せっせと全部の心を磨いてんだよ」
「そうなの!?」
「ほら、もう騙された」
優一は心底おどろいた私の反応がおかしかったようだ。しばらく笑っている。
私自身はびっくりしたのに、私の顔は、満面の笑み。
ちぐはぐな、私の身体。
アンバランスな身体の動きをするから、気持ちが私の外側に出てこないで、内側のずっとずっと深いところでくすぶるような、もどかしさを覚える。
でも、不快感はあまりない。不安定だった私を支える添え木というか、松葉杖というか。
優一がいるから、私は私だけのものではなくなった。
だから、私はもう……。
「私。失恋して、もう人生なんかどうでもいいやって思ってたの」
優一は息を呑んだ。
「慰めてくれるひともいるよ。いるけどね、私がそばにいてほしいのは彼じゃなくて……」
優一の苗字は、『早川』
偶然かもしれないけど、もしかしたら優一は……。
「私を励ましてくれる男子も、早川くんっていうの」
「へえ。早川って、物好きが多い家系なのかな」
私は微笑んだ。ちゃかしてくる優一は、やっぱり私が知っている早川くんに似ている。
「すみれ。俺が人生の楽しみ方を教えてやるよ。「もう死にたくありません!」って叫びたくなるくらい、ぶっ飛んだ毎日を送ろうぜ」
「優一、何をする気なの?」
優一は、これからの私たちの生き方を次々に提案してきた。
「まずは腹話術師として、お笑いグランプリに出場する! 俺たちは当然、優勝、賞金ゲット! 時代はネットだからな、生配信やショート動画でも稼ぐ。一人二役の役者もいいな。男女の役ができるのにギャラはひとり分って、スポンサーにはありがたいはずだ」
無茶苦茶で実現不可能な……いや、その気になればできるかもしれないけど私がやりたがらないことばかり、優一は言い出してくる。
おかしくて、おかしくて、私は笑いが止まらなかった。
さみしくない夜を迎えるのは、本当に久しぶりだった。
ひとつの身体に、ふたつの声と心。まるで、生まれ変わったような気分がした。
私は部屋の机に突っ伏して、うたた寝していたらしい。
私は座ったまま、指先を見つめた。何も変わっていない、私の身体。
「……変な夢を見たなあ」
「夢じゃない、すみれ」
「ひぃ!?」
私は素っ頓狂な声を上げて、のけぞった。
いま、しゃべったのは、私。返事したのも、私。私なんだけど……。
「すみれ、大丈夫か?」
私の唇が勝手に動く。この声は……。
「優一……私のなかにいるの?」
「ああ、そうだ。心むき出しでいるのと、やっぱちがうな」
優一は深呼吸している。私の身体で。
「すみれ。煙草、吸ったことあるか?」
「ないよ。十七歳だから」
「そっか……俺の身体で吸う空気とちがう気がする。肺が綺麗だと、空気ってうまいんだな」
繰り返し、深呼吸をする優一を見ていると、なんだかおかしかった。
「俺……戻ってこられたんだな」
「そうだよ。ね、もっと新鮮な空気を吸おうよ」
私は立ち上がり、窓辺へ向かう。
空には、たくさんの星がきらめいていた。この部屋の窓を開けたのは久しぶりだ。
もう8月が終わるけれど、まだ夏の熱気を孕む夜。
「俺。死ぬとき、星になりたかった。星になれば、いろんな人のそばにいられる。もう俺は何もできなくても、みんなが笑ったり泣いたりするのを眺めていられる」
私は優一といっしょに、星空を眺めた。
「……そうなるんだったら、死ぬのも怖くないって思っていた。そうやって……最後の最後まで、命が終わろうとする、自分を慰めてた」
「優一。優一がしたかったこと、全部しようね。私、手伝ってあげるから」
もう……私は、ひとりじゃないんだ。
優一のために、私は生きる。
「すみれ。ありがとな……俺さ」
私の瞳には、涙があふれていた。この涙はきっと……。
「俺、がさつでだらしない奴だから、女の子といっしょになるなんて、気まずいっつーか、いけないことしているみたいでさ……すみれが目を覚ますまで、ごめん、ごめんって、何度も謝ってた」
「気にしないで。私が選んだの」
『女の子』と呼ばれて、くすぐったい。女の子扱いしてくれる年頃の男子と会話するのは、恥ずかしいというか照れてしまう。
「私ね。優一のためなら、何だってするよ」
優一の返事はない。
「……優一?」
「……すみれ。会ったばかりの奴を信用するなよ。俺は、すみれの身体を乗っ取った悪魔かもしれないぞ?」
「そんなこと、絶対にない。優一の心はきらきらしていて、すごく綺麗だったから」
「あれは選ばれるために、案内人のにいちゃんが、毎日せっせと全部の心を磨いてんだよ」
「そうなの!?」
「ほら、もう騙された」
優一は心底おどろいた私の反応がおかしかったようだ。しばらく笑っている。
私自身はびっくりしたのに、私の顔は、満面の笑み。
ちぐはぐな、私の身体。
アンバランスな身体の動きをするから、気持ちが私の外側に出てこないで、内側のずっとずっと深いところでくすぶるような、もどかしさを覚える。
でも、不快感はあまりない。不安定だった私を支える添え木というか、松葉杖というか。
優一がいるから、私は私だけのものではなくなった。
だから、私はもう……。
「私。失恋して、もう人生なんかどうでもいいやって思ってたの」
優一は息を呑んだ。
「慰めてくれるひともいるよ。いるけどね、私がそばにいてほしいのは彼じゃなくて……」
優一の苗字は、『早川』
偶然かもしれないけど、もしかしたら優一は……。
「私を励ましてくれる男子も、早川くんっていうの」
「へえ。早川って、物好きが多い家系なのかな」
私は微笑んだ。ちゃかしてくる優一は、やっぱり私が知っている早川くんに似ている。
「すみれ。俺が人生の楽しみ方を教えてやるよ。「もう死にたくありません!」って叫びたくなるくらい、ぶっ飛んだ毎日を送ろうぜ」
「優一、何をする気なの?」
優一は、これからの私たちの生き方を次々に提案してきた。
「まずは腹話術師として、お笑いグランプリに出場する! 俺たちは当然、優勝、賞金ゲット! 時代はネットだからな、生配信やショート動画でも稼ぐ。一人二役の役者もいいな。男女の役ができるのにギャラはひとり分って、スポンサーにはありがたいはずだ」
無茶苦茶で実現不可能な……いや、その気になればできるかもしれないけど私がやりたがらないことばかり、優一は言い出してくる。
おかしくて、おかしくて、私は笑いが止まらなかった。
さみしくない夜を迎えるのは、本当に久しぶりだった。
ひとつの身体に、ふたつの声と心。まるで、生まれ変わったような気分がした。



