十人一色 ─トランスジェンダーをかかえたふたり─


「いや、言える相手いないから、聞いてもらえるだけで助かる」

 曲を入れるでもなく、何か飲むでもなく、ただ世の中の不条理だってことを話して時間は過ぎる。

「なんで、好きなだけじゃだめなんだろう。大切にしたいってお互い思えたら充分じゃないのか。性別はそこに関係あるのか」

 和香は誰に対する不満でもなく、口にする。

「……一般論は、それ(・・)が男女であるのが大前提だからな。普通の男と女なら」 

 つくづく、自分は生まれだけでなく思考回路も普通から外れた存在なんだと知らしめられ、和香も長椅子に足を投げ出す。

(「同性愛なんて気持ち悪い」と言って別れさせるのが普通の人間の正解なら、おめでとうと祝福した俺は普通じゃなくて間違えている人間なんだ。俺は一生普通になれそうにないや)

 普通は、一般的には、通常は、

 和香もリクも、それぞれこうして心を抱えて生きているのに。

「俺も、孫の顔見たいって親から言われてて死にそう」

「うわ、それきっつー」

 テーブルを挟んで反対側の長椅子に寝そべったまま、リクが引いている。

 人を愛せない性質の和香に、男と結婚して子を産めなんて無理難題だ。

 見た目は普通の人間と同じだから、普通を求められる。

「リク……。これからもさ、何かあったらいつでも話聞くから。俺には、それくらいしかできないけど」

「ああ。オレも、いつでも聞くよ」

 リクは少しずつ立ち直り、今は新しい仕事にまい進している。
 ペット可のマンションに引っ越して犬を飼い始めた。
 資格取得を目指して毎日仕事の合間に勉強しているんだ。と、犬の写真付きでメッセージが届く。

 それから和香は筆をとった。
 男の筆名を使って物語を始めた。

 男として生まれていたなら欲しかった名前、黎明で。

 手術することはできなくても、せめて、紙の上だけでも男になりたいからだ。

 少しでも多くの人に心と体の性が違う人間がどう感じて生きているかを知ってもらうために。

 そしてこの物語に、十人一色と名付けた。


 END

※この物語は筆者の実体験をベースに書いています。
 友人の性別適合手術の話や婚約から婚約破棄させられた理由も実際に起こったことをありのまま書いています。