十人一色 ─トランスジェンダーをかかえたふたり─

「シオリの親は、娘が同性愛者だってことは知っていたみたいだ。結婚するって言うからようやく普通《・・》になったと思ったんだってさ」

 それで婚約者として連れてきたのが、女から男に性転換したリク。

「やっと、男になれたのに。生まれながらの男じゃないからダメって、オレはどうすりゃよかったんだよ」

「……そうだな」

 和香も正しい答えがわからない。
 ただ相槌を打つ。

「結婚を許してもらえたなら、子どもに関しては、精子バンクを使おうと、思ってたんだ。調べるだけ無駄に終わったけど」

 精子バンク。無精子症などで妊娠が望めない夫婦が使ったり、同性愛で子供がほしいカップルが利用する機関だ。 

 シオリさんとの未来のためにそこまで本気で考えていたのに、性転換者だから、それだけの理由で婚約解消させられた。

 シオリさんの親が特別偏見にまみれているというわけではない。

 きっと、世の多くの親は我が子に“普通の人”と結婚してほしいと思っている。

 二人とも成人しているから親の同意なしに結婚できるけれど、リクと結婚するとシオリさんは親に勘当される。

 親に祝福されない結婚じゃ、意味がない。

 シオリさんのことを考えると、別れる以外道はなかったという。

「……リク、話を聞くくらいしかできなくてすまない。役に立てたら良かったんだけどな」

 元気を出せなんて言われても意味はないし、わかるよなんて軽く言えるものでもない。
 リクは安い慰めの言葉なんか求めていない気がする。