十人一色 ─トランスジェンダーをかかえたふたり─

 リクが望むとおり男なれたのは、社会人になってから。

 学生の間バイトを掛け持ちして、千葉で工場に就職してからもスキマ時間をバイトにあてて、資金をためてタイに渡った。

 毎年年賀状と暑中見舞いを送りあい、近況報告する。

 何度か季節をめぐり、胸がぺたんこになったリクは本当に嬉しそうだった。

 手術を期に転職して、そこで男性社員として社員証を得た。
 子宮摘出と胸の切除手術の影響か、声は低くなっている。

 見せてくれたスケジュール帳は仕事の予定でびっしり埋まっている。

「リク、いつ休んでるんだよ」

「手術が終わってもホルモン注射が必要だからなぁ。金がかかってしかたねーの。でも生理が来ないの快適すぎる! 好きな男物の服着れるの最高!」

 お前も早く手術しなよ、なんてすすめてくるが、こちとら金がない。

「切って終わりじゃないの、大変だな」
「そ。注射しないと更年期障害みたいになるから」

 適合手術は本来生まれた姿と違う形に歪めるということで、綺麗事で済まない。

 戸籍上男になれても、本来は女として生まれていたことには変わらないから、今後ずっと維持(・・)するコストがかかる。

「それでもオレはずっと男になりたかったから、金がかかってもいいんだ。わかってて手術したんだ」

「うん、俺から見ても、リクは学生時代より良い顔してるよ」

 和香は今でも女のままで生きている。
 卒業後は美術の道には進まずに、地元のレストランに就職した。

 面接練習の時点でさんざん嫌な目に遭ったから、「女らしく」擬態することを覚えた。
 教科書通りの女言葉を使う。

 普通の女性とかわらない人間のふりをして生きている。
 唯一リクと話す時間だけが、本来の自分として話せる瞬間だ。

 同じ高校にいたけれど、高校のときとは全く違う道にいる。

「俺たち最初から男として生まれていたなら、こんなことしなくてもよかったのにな」
「本当にな」

 年一の定例になったカラオケ会でどうにもならないことをいいあって、別れる。