十人一色 ─トランスジェンダーをかかえたふたり─

「良かったわねー、和香(わか)。おばあちゃんがランドセル買ってくれたわよ」

 それは、水沢和香(みずさわわか)が小学校の入学式をひかえた二月のこと。

 母が大きな箱から、真っ赤なランドセルを取り出した。

「……俺、黒がほしかったのに」

 そう、最初から和香は伝えていた。

 カタログを見せられてどれがいいか聞かれたときに、黒いのがいいって。

 日曜朝の戦隊ヒーローも、ブラックが好きだった。

 なのになんで真っ赤なものを贈ってきたのか、和香にはわからない。

「何馬鹿なこと言ってるの和香。女の子が()なんて汚い言葉を言っちゃいけません! あなたは女の子なんだから赤に決まってるでしょ。黒は男の子の色なの。ほら、おばあちゃんにありがとうは?」

 この瞬間から、世界で一番嫌いな色は赤になった。

 赤以外許されない空気が嫌いだ。

 十人十色という言葉があるけれど、赤しか許してくれないなら選択肢は一色だ。

 おばあちゃんからのおくりものを喜ばないひどい子、そういわれるのは心外だ。

 兄は俺と言っても怒られないのに、なぜ同じ言葉を和香が使うと怒られるのかわからない。

 女の子だから、という言葉は呪いだ。

 赤いランドセルは呪いの重石だ。

 嫌いな色のランドセルを六年背負わないといけない和香の気持ちは、どうなるんだろう。

 制服はスカートで、なんでかわからないけど気持ち悪い。

 まわりの女の子に「スカートやじゃない?」聞いたら、逆に「なんでいやなの?」って聞き返されてしまう。

 どうやら、いやだと思う和香のほうがおかしいらしい。