ドキュメンタリー番組出演から一年経った。
僕は現在、最初に勤めた箱根の旅館に戻っていた。
配信者として情報発信の経験を買われて、今は裏方兼、広報担当をしている。
事務所で宿のブログにオススメ観光情報を書き終えて、今は休憩時間だ。
サエさんがまかないとして、お茶と温かいぜんざいを出してくれた。
「みんなの感想が良いなら新メニューにしようと思うんだけど、どうかしらね」
口の中にほんのりとした甘みが広がる。
豆の香りもいい。
「すごく美味しい。食後のデザートにしたら絶対喜ばれるよ、これ」
「あらほんと? ユウトさんがそう言うなら、メニューに加えるわ」
サエさんは大喜びで、メニュー表にぜんざいを書き足した。
生家にいた頃の自分を思い出すことは、もうない。
風が吹いた。
窓の外、山の向こうに日が沈み、空が茜色に染まる。
「次は……どこへ行こうかな。また南を旅するのもいいかもしれない」
つぶやいて、小さく笑った。
END
