女将はおばあちゃんと同年代の、穏やかな老婦人だった。
温かいお茶を出してくれて、僕は恐る恐る口をつけた。
家を出てから何も口にしていなかったから、体にしみる。
女将は履歴書をひと通り読んで、首を傾げた。
「ユウトさん。あなた、東京の高校を卒業したばかりなんでしょう? 宿で働きたいなら、家から通える場所にもいくらでもあるでしょ? なぜこんな遠いところに?」
都内には数え切れないほどホテルや旅館があるから、女将が言うことももっともだ。
「……帰る場所がないんです。住み込みで働けるなら、なんでもします。だから僕をここに置いてください」
両手を畳について、頭を下げる。
「帰る場所がないってどういうこと? 何か事情がありそうね。話してみて。ゆっくりでいいから。ね?」
その言葉に、僕の中で張り詰めていた糸が切れた。
涙が止まらない。
女将は一瞬驚いたものの、ユウトの背中をさすってくれる。
なんて、あったかいんだろう。
本当なら、親がくれるはずのものなのに。
初めて優しい言葉をくれたのは、家族ではなく初対面の女将。
