当て馬の矜持 ー嘘吐きな僕らの協奏曲《コンチェルト》ー

「……ドイツ語で誕生日おめでとうって、どう書けば……」

「あたしがお手本を書いてあげる。そのまま移して書くといいわ」

 歩さんはメモ用紙にペンを走らせる。

 Für meine geliebte Kanon,
 Alles Gute zum Geburtstag.
 Von Kyoji

「これを書けばいいわ」

「ありがとうございます。歩さんはドイツ語ができるんですか? すごいです」

「ドイツ語圏に住んでたことがあるからね。ふふっ。あなた、素直でかわいいけれど、少しは他人を疑うことを覚えたほうがいいわね」

 歩さんは、なんだかやけに楽しそうだ。

 黙ってなさい、と言われたからか、初田さんはなにか言いたげだけど黙って歩さんのメモを見ていた。