当て馬の矜持 ー嘘吐きな僕らの協奏曲《コンチェルト》ー

 レオに手を引かれてリビングに入る。
 テレビの前のローテーブルにはもう、華音の教科書やノートがおいてある。

「いまコーヒーいれる、座って待ってて」

「わかった。そうだ、これ食べて。母さんが華音にって」

 ようやくたまご焼きの存在を思い出して、華音に保冷バッグごと渡す。

Danke(ダンケ)! Mama(ママ)たちもいちど食べてみたいって言ってたから、うれしいよ!」

 華音は奥に行って、トレーを持って戻ってきた。

 ブラックコーヒーを二つと、子ども用カップひとつ。

 それからお供にマフィン。

「おさとうとミルクあるよ?」

「ありがとう。ブラックのままでいただくよ」

 レオは僕の隣にちょこんとすわって、両手でカップをつかんで、ミルクに息を吹きかけている。

 マフィンはほうれん草とチーズ、かぼちゃが練りこまれていて美味しそうだ。

 レオは敵でも見るようにそれをにらんでいる。

「食べないの?」

 聞いてみるとレオはこくりと(うなず)いて、ホットミルクにだけ口をつける。

 華音はそんなレオを見て肩を落とす。

「めーよ、レオ。おやさいも食べないと、おおきくなれない」
「なれなくていいもん」

 むくれるレオの隣で、僕は手を合わせてマフィンをいただく。

「いただきます。いい香りだな。華音、これ手作り? すごくおいしい」

Danke(ダンケ)。そう、けさ、Mama(ママ)とつくったよ」
「そっか。こんなにおいしいマフィンを毎日食べられるなんて、しあわせだねレオは」

「……ぼく、おやさいきらいなのに。ねーねとママ、いじわるでおやさいいれるんだ」

 言いながら、レオはフォークでマフィンをころがす。

 野菜を入れるのは華音とお母さんの愛情ゆえなのだけど、意地悪として受け取ってるわけだ。
 もちろん、華音はムッとしている。