当て馬の矜持 ー嘘吐きな僕らの協奏曲《コンチェルト》ー


 華音の家は江ノ電の稲村ヶ崎駅から北にしばらく歩いた住宅街にあった。

 ごく普通の日本家屋だ。
 阿部という表札を確認してから、チャイムに手を伸ばす。

 手のひらは汗でべとべとしてるし、いやに心臓の音がうるさい。

 ただチャイムを押すだけなのに、コンクールで舞台に立つときみたいに緊張している自分がなんかおかしい。

「はーい!」

 小さな男の子の声がして、玄関の戸が開く。
 サンタに会ったのかってくらい嬉しそうに笑うレオが出てきた。

「あ! きょーくんだ! おねーちゃーん!」

 僕が何か言う前に、レオは中にかけ戻っていく。

 あれ? 僕のこと知ってる?

 もしかして待ち受けを見せたのか?

 考えている間に、レオがエプロン姿の華音を引っ張って戻ってきた。

 いつもは結んでいる髪を後ろに流していて、華音が動くたびにサラサラと流れる。
 初めて会った日も思ったけれど、すごくきれいな髪だな。

 ゆったりしたオフショルダーのロングシャツに、ショートパンツスタイル。

 オフショルダーだから鎖骨のあたりが見える。
 ……ちょっと目のやり場に困る。

「キョウジ、いらっしゃい。ほら、レオ。キョウジに『はじめまして』するよ」

 レオは華音によく似た笑い方で、おじぎする。

「あのね、ぼくね、レオっていうの」
「僕は響司。よろしくね、レオ」
「ん!」

 僕が脱いだ靴を揃えている間に、レオがスリッパを出してくれていた。

「ありがとう、レオ。おてつだいできるの、えらいな」
「えへへ。おへや、こっちだよ」