当て馬の矜持 ー嘘吐きな僕らの協奏曲《コンチェルト》ー


 1-4教室に戻ると、葉月と華音が教科書から顔を上げた。

「おかえりー」


 沢が葉月に向けて、コーラを軽く投げる。


「はい、葉月ちゃんこれ」
「……ありがと、沢くん」

 葉月はぎこちなく笑ってコーラの蓋を開ける。

「華音、これでいい?」

 華音にブラックコーヒーを渡すと、華音は両手でコーヒーを掲げて目を輝かせた。

Danke(ダンケ)! すごいね、キョウジ!  あたしブラックコーヒー好きって言ったことないのに。Der(ディ)Telepath(テレパート)なの?」


 テレパシーでもなんでもない。

 ここ数日一緒に過ごして気づいた。

 華音は毎日昼食のときに、水筒のコーヒーを飲んでいた。

 こんな風に学校の自販機にもあるから、ちょっと飲むだけなら買うこともできる。

 節約志向というなら、水道水でもいいわけだし。
 自分で淹れて持ってくるくらい、コーヒーが好きなのかなと思っただけだ。

 単純にそうやって推測しただけなんだけど、こどもみたいにはしゃぐのがなんだか可愛くおもえる。

 だから華音の話に乗っかることにした。

「そうかも。華音のしかわからないけど」


「さっすが彼氏。愛の力ってやつですかねー。超能力あるなら俺の好きなものはわかるー?」

「残念。わからないよ」

「ひどいわ! 俺への愛が足りない! 阿部専門かよ! 見せつけてくれやがってー」


 沢が泣き真似で体をくねらせ、バシバシ僕の肩を叩く。


 華音はちょっとだけ寂しそうに返す。

「そう、キョウジすごいのよ。しょうかいしてくれて、ありがとねサワ」
「おう」

 葉月は、そんな僕らのやりとりを無言で見ていた。
 なんだかいつもよりも口数が少ない。