当て馬の矜持 ー嘘吐きな僕らの協奏曲《コンチェルト》ー


「悪いな。本当は阿部と二人がよかっただろ」

「そうだね」

「否定しないんかーい!」

 とんできたチョップをかわして、自販機にお金を入れる。

 ブラックコーヒー二本。

 やけどしないよう熱々の缶をハンカチでくるんで、ブレザーのポケットに入れる。

「……ま、響司を紹介してよかったよ。大切にしてるの、見てたらわかるし」

 沢は牛乳とコーラを買って、牛乳でお手玉する。

「ほら、阿部はあの見た目だから目立つだろ? 中学んときは女子に目の敵にされてたんだ。そのなかのリーダーがさ、好きなやつにコクったら『阿部の事好きだから無理』って振られたらしくてさ。腹いせって言うの?」

「えぇ……、それって華音は何も悪くないんじゃ」

 知らないところで他人の色恋沙汰に巻き込まれるなんて、とんだとばっちりだ。

 沢はそのときのことを思い出したのか、かおをしかめる。

「俺もそう思う。……だから響司といる阿部が楽しそうで、よかった」

 最初会ったとき華音が自信なさげだったのは、そういう経験があったからなんだ。

 いじめられていたなんて知らなかった。
 きっと華音も思い出したくないだろうし、話したくはないだろう。
 
「うん。僕も、華音にはいつも笑っていてほしい」


 仮の恋人だというのを抜きにして、そう思う。

 『華音は当馬の恋人』と周囲が思っているなら、少なくとも高校ではそういう心配なくなるのかな。

 他人の恋人に横恋慕するなんて、よっぽどのことがないといないだろうから。


「ひゅー! ベタぼれじゃーん。このこの!」
「いたた……」

 テンション高めの背中をばしばし叩かれながら、歩き出した。