当て馬の矜持 ー嘘吐きな僕らの協奏曲《コンチェルト》ー

「響司くんの演奏、私は素直に聞けないの。……最初に響司くんが入賞した日、『私のほうが先にピアノをはじめたのに、なんで、私は予選で落ちて、響司くんが賞を取れるの、私のほうが』って、思っちゃったの」

 明るくて誰にでも平等、に見えていたのに。
 葉月さんは、本当はうらやましい、ずるいってきもち、抱えていたんだ。


「響司くんの音を聞くたび、自分のこと嫌いになるの」

 あたしには、泣きたくなるようなきれいな音色に聞こえる。

 葉月さんにとっては、そうじゃない。

 あたしの知らない時間が、そこにある。 

「おじいちゃんおばあちゃんは、私のピアノを上手だねってほめてくれたけど、贔屓目でしかなかったんだなってわかっちゃった。だってお父さんはずっと、今のままじゃ駄目だよって言ってたから。……子供の頃はさ。お父さんは私がきらいで意地悪言うんだ、なんて、思ってた」

 下を向いて、声は低くしずんでいく。

「今でも、響司くんが入賞しても、おめでとうより先にくやしい、ずるいって気持ちが先に来て、おめでとうを言えないの」


 たくさん、気持ちを吐き出したあと、葉月さんは聞こえないくらい小さい声で何か言った。


「……あんなうそ、つかなきゃよかった」


 いまにも、泣き出しそうな顔だった。