当て馬の矜持 ー嘘吐きな僕らの協奏曲《コンチェルト》ー


 ミツキちゃんが奏でる元気いっぱいの第九をきいて、懐かしい気持ちになる。

 音色は心をあらわす。

 そのとおりだ。
 
 ミツキちゃんは夢いっぱいで、世の中すべてかがやいてみえているんだろうな。

 
 僕がピアノを習い始たのは、ミツキちゃんと同じ年の頃だ。

 昔は葉月と僕、どっちが先にピアニストになるかでケンカしたな。

 でも、葉月は中学校にあがる前にピアノをやめてしまった。

 理由を聞いたら、「私にはむいてないと思う」なんて、あたりさわりないことしか言わなかった。

 本当のところどうなのかわからない。

 葉月は肝心なことは隠して、ひとりで溜め込むようなところがあるから。

 いくら幼馴染でも、葉月にとって僕は、本音を言えるような相手ではなかったのかもしれない。


 幼いの頃の気持ちがずっと続くなんて保証はない。

 ピアニストになると言っていた葉月が、突然ピアノをやめてしまったように。

 心が天気のように移り変わるなら。

 僕もいつかは、忘れられるんだろうか。

 葉月を好きな気持ちを。

 失恋した、この痛みを。