当て馬の矜持 ー嘘吐きな僕らの協奏曲《コンチェルト》ー

 今日はピアノのレッスン日。

 授業が終わって、まっすぐに吉田音楽教室にきて練習している。
 
 弾いているのはベートーヴェンのピアノソナタ八番、悲愴第二楽章。

 六月に参加するコンクール地区予選の課題曲だった。

「⸺よし、そこまで」

 最後の一音を弾き終えて数拍、大地先生が手を叩く。

「響司くん、だいぶ形になってきたね。先週より良い音だ」

「ありがとうございます」

 ピアノから顔を上げる。

「先週の響司くんの音は、悲愴というよりは絶望って感じだったからね。手を介するから、音楽というのはその日の気分がダイレクトに音色に現れてしまう」

「……すみません」