当て馬の矜持 ー嘘吐きな僕らの協奏曲《コンチェルト》ー

 春のダブルデートで、僕と華音は嘘の恋人を演じようと約束した。
 海は、僕らにとって悲しい思い出の場所だった。

 でも今は──

 僕らの目の前には、雲一つない真っ青な空と、穏やかな海が広がっている。

 照りつける日差しで肌が痛い。

 華音は海風に翻弄される髪を押さえて、道の先にあるものを指した。

 海と鮮やかなフェンスを背にそびえ立つ鐘。

 フェンスには無数の南京錠がかかっていて、その一つ一つに、カラフルなメッセージプレートがついている。 

「キョウジ、あれだよ。龍恋の鐘!」

 華音が帰国してから、江ノ島の奥にある龍恋の鐘に来ていた。