当て馬の矜持 ー嘘吐きな僕らの協奏曲《コンチェルト》ー

「よかった……」

 全部、僕のはやとちりだったんだ。

 華音はこれからも日本にいてくれるんだ。

 嬉しくて、涙が出そうになる。

 華音はひとしきり笑って、めじりに浮かんだ涙を指でぬぐう。

 それから、「でも」と付け加えた。

「……でも、なに?」

「高校出たら、ウィーンに帰る。Die(ディ)Oma (オマ)みたいなオペラ歌手なりたいから。そこから音大行く」

 いますぐでないにしろ、華音は日本を離れるんだ。

「本気でウィーンの音大目指さないとだ」

「ならあたし、キョウジのせんせになるよ。ウィーンの学校、ドイツ語、話せないと行けないのよ?」

 華音は得意げに、人差し指を指揮棒みたいに動かす。

 華音にとってドイツ語は第一言語。

 こんなに頼もしいドイツ語講師は他にいない。