当て馬の矜持 ー嘘吐きな僕らの協奏曲《コンチェルト》ー

「……僕、高校を卒業したらウィーンの音大に行こうと思う。もっと勉強して、向こうの劇場で弾けるようになるから……」

 ああ、言いたいのはこれじゃない。

 こんなことじゃない。

 もう時間がないんだから、ちゃんと言わなきゃ。

「僕が向こうでピアニストになれたら、そのときは隣に居てほしい。…………華音と一緒に居たいんだ」

 行かないでほしいなんて言えない。

 ドイツ語もまともに話せない今の僕が、一人でウィーンで暮らすなんて現実的じゃない。

 だからせめて、僕がウィーンに行けるだけの力を付けてから。

 すごく遠回しな言い方しかできなくて、情けないな。

 華音は何度もまばたきして、それから小さく笑った。

「今じゃなくていいの? ……あたしは今キョウジといたいよ」

「…………え、だって、華音は明日引っ越すんじゃ」

 華音は肩を震わせて、僕の手を握り返す。

「ふふふっ。あはは、キョウジ、あたしがひっこすと、思ってたのね? Die(ディ)Oma (オマ)のとこいくのは、旅行。五日だけよ。レオ、テレビ通話はしてたけど、ちょくせつ会ったことないから」