当て馬の矜持 ー嘘吐きな僕らの協奏曲《コンチェルト》ー

「全国大会は持ち時間一人十分だ。短い曲を弾くなら少なくとも二曲編成する必要がある。予定通り行くなら、悲愴の第二楽章と第三楽章だけど」

 発表後、音楽教室で大地先生と話し合う。

 本来なら先生は悲愴第二楽章と第三楽章通しを想定していた。

 全国大会で勝ちたいだけ(・・)ならそれが最良だ。

 難易度も、曲の長さも。

 けれど、僕は。

「カノンと、Ich(イッチ) liebe(リーベ) dich(ディッチ)がいいです」

Ich(イッチ) liebe(リーベ) dich(ディッチ)……たしかにそれも教えたことはあるが、コンクール向きではないだろう」

 Ich(イッチ) liebe(リーベ) dich(ディッチ)の演奏時間はおよそ二分半。
 パッヘルベルのカノンと合わせても九分いくかどうかというところだ。

 あまりに短いから、大地先生が言うようにコンクール自由曲で選ぶ人はまずいない。

「それでも、この二曲でいきたいです」

 ──華音が眠るときは僕が弾くよ。

 そんな、たわいない口約束を叶える機会はもうない。

 夏休みが終わる前に、華音はオーストリアに行ってしまう。

 後悔したくない。