当て馬の矜持 ー嘘吐きな僕らの協奏曲《コンチェルト》ー

 夏休みに入ったおかげで、ピアノの練習に本腰を入れることができた。

 万全の体制で地区本選当日を迎えた。

 名前を呼ばれて、舞台に上がる。

 劇場内に視線を走らせても、華音の姿はない。

 昨日の朝、インフルエンザで熱を出したと本人から電話があった。

『行きたかった、ごめん』と何度も謝っていた華音。

 父さんと母さん、大地先生が僕を見ている。

 これまでのコンクールと何も変わらないはずなのに。

 大地先生はいつも「音色は嘘を吐けない」と言っている。

 今の……嘘吐きな僕の音は、どんな色をしているんだろう。

 鍵盤に指を置き、ひとつひとつ、カノンの音色を重ねる。

 高校に入ってからこれまでの日々がくるくるとめぐる。

 沢と華音に出会わなかったら、僕はこの場でカノンを弾いていなかった。

 これまでずっと、大地先生の言うとおりにしてきた。

 でも今は──どうしても、カノンを弾きたいと思った。

 僕自身の意思で。