当て馬の矜持 ー嘘吐きな僕らの協奏曲《コンチェルト》ー

 周りに誰もいないか、一瞬だけ視線を走らせる。

 ——いない。

 誰も見てないなら大丈夫か。

 いや、そういう問題じゃない。

 これは、本当の恋人同士がすることで。

 僕らは、ただの——

 いや、形だけとはいえ、表向きは恋人だ。

 ここで断ったら、不自然になる。

 華音はまっすぐ僕を見る。

 僕がこのまま食べることを、みじんも疑っていない目だ。

 これは味見、そう、ただの味見。

 他意がないんだから、意識するほうがおかしいんだ。

「……いただきます」

 観念して、口を開ける。

 バターの香りと、ほんのりした塩気が口の中に広がる。

 ほうれん草とベーコンがちょうどいいぐあいに入っていて、歯ごたえもあるし濃厚で飽きがこない。


「……おいしい」
「ほんと?」

 僕のたったひとことで、華音の顔がぱあっと明るくなる。

 なぜか、胸がぎゅっと締めつけられる。