当て馬の矜持 ー嘘吐きな僕らの協奏曲《コンチェルト》ー

「僕は、神童と呼ばれたくてピアノを弾いているんじゃない」

 僕が知らないところで、誰かが貼りつけた肩書きに興味はない。

 まぶたを閉じれば、応援してくれた人たちの顔が浮かぶ。

「聴いて欲しい人がいるから、弾いているんです」

 佐伯先生は大きく目を見開く。

 すこしの沈黙のあと口を開いた。


「……そうね。誰かが勝手につけた、神童なんて肩書きに意味なんてないわ。……影も形もない、言葉にすぎないもの」

 目を閉じて自重気味に言う。

「そんな当たり前のことを忘れていたのね、わたし。いつのまにか評価に固執して、ピアノを弾いても何も楽しくなくて、あの子(・・・)を屈服させることだけが目標に変わっていた。だからわたしは、あの子(・・・)に負けたんだわ。やっとわかった」

 長いため息を吐いて、佐伯先生は晴れやかな顔で笑った。
 

「がんばってね。あなたなら、全国大会だって乗り越えられるわ」