当て馬の矜持 ー嘘吐きな僕らの協奏曲《コンチェルト》ー

 弾き終えると、大地先生は小さく拍手をした。

「教えたのは五年も前なのに、きちんと覚えているんだね。それに、あの頃よりも音に深い彩りがある」

「そう、ですか? 自分ではまだまだだと思ったんですが」

 ミスタッチをしたと思うし、フォルテの部分を強くしすぎた気もする。

「前よりも格段に良くなった。が、さらに完成度を上げるために練習は厳しくいくぞ」

「はい!」

 本選の曲が決まり、あとは練習するだけだ。

 翌日。

 音楽の佐伯(さえき)先生に頼んで、昼休みと放課後に音楽室を使わせてもらえることになった。

 電子ピアノとグランドピアノでは音の響きが違うから、できるかぎり本番に近い形で練習したい。

「予選通過おめでとう、当馬くん。さすが、神童と言われているだけはあるわね。わたしも会場まで聴きに行ったけれど、一般部門であそこまで堂々としていられるなんてね」

「……ありがとうございます」

 佐伯先生はピアノの蓋を開けて、しわのある手で愛おしそうに鍵盤にふれる。

 どうしてだろう。

 佐伯先生の目は、ここではないどこか遠くを見ているように思える。


「わたしも若い頃は当馬くんみたいに、コンクールに打ち込んだものだわ」

 そこでいったん言葉を切って、僕の方を見る。

「どこまでがんばっても金はとれなくて。しょせんわたしは凡才。同じコンクールに天才が、あの子(・・・)がいるせいで無理なんだと、諦めてしまったのよ。情けない話だけど」
「そんなことは……」

 佐伯先生の言葉は、どこか皮肉めいて聞こえる。