当て馬の矜持 ー嘘吐きな僕らの協奏曲《コンチェルト》ー

 中学までの僕は、ピアノを弾くためだけに生活していた。

 部活には入らずに、まっすぐ家に帰ってピアノを弾く日々。

 夏休みも、冬休みも。

 僕が望まなかったから、そういう長期休みに家族旅行に行ったこともない。

 もっとうまくなりたくてひたすらピアノを弾いていた。

 クラスメイトたちが好きな漫画やゲーム、アニメの話をする中で、僕の話題はピアノのことしかなかった。

「昨日のあれみた? まじやばかったよな!」

 なんてもりあがるクラスメイトの輪に入れたことはなかった。

 輪に入りたくなかったわけじゃない。

 その会話に入るために、ピアノの時間を削ることに、意味を見いだせなかったからだ。

 ピアノの時間を削ってまで、他人の趣味に合わせないといけないのだろうか、なんて。
 
 そんなふうに、みんなが当たり前に持っているささやかな時間を、切り離して生きてきた。

 一人でいる僕に話しかけてくる、草凪のような人間はまれだった。


 ──でも、今は。