当て馬の矜持 ー嘘吐きな僕らの協奏曲《コンチェルト》ー


 今日は、キョウジのコンクール地区予選。

 来てほしいってキョウジが言ってくれたから会場まで来たけど、あたしでよかったのかな。

 ほんとは、葉月さんに来てほしかったんじゃないかな。

 入り口でコンクールのプリントをもらったけど、そこで足がすくんじゃって、シートに入れない。

 エントランスのソファに腰を下ろして、時間だけが過ぎていく。

 防音の施設とはいえ、中から音が漏れ聞こえてくる。

 テンペスト、月光……今回の課題曲はベートーヴェンのソナタのなかから一曲を選ぶと書いてある。


 もうすぐ、キョウジの出番。

 うつむいて座ったまま動けずにいたら、誰かが歩み寄ってきた。

「お加減が優れないんですか?」

 顔を上げると、見覚えのある男の人が、ペットボトルの水を差し出してきた。
 レオの幼稚園のお友だち、ミツキちゃんのパパだ。