当て馬の矜持 ー嘘吐きな僕らの協奏曲《コンチェルト》ー

「こんな炭を食べたら、お友だちが腹を壊すだろ」

「ひどっ! 私なりにがんばったのに!」

「事実だ。がんばったならオーケーだと思っているなら、葉月はこの炭を食べられるというのかい?」

「うう……むり、だけど」

 鍋の中の物体は、炭と呼んでもさしつかえないくらいには、黒くなっている。

 芋の面影は、球体というところだけ。

 しかも、よく見ると皮付きのままだ。

 葉月はむっとした顔で唇を尖らせる。

「ちゃんとレシピどおりにやったはずなのに」

「レシピには、鍋を消し炭にしろなんて書いてない」
 
 親子のやり取りを見ながら、僕は少しだけ笑う。

 素直じゃないな、葉月。


 大地先生は小さくため息をついて、もとの色がわからなくなった鍋を持ち上げる。

「いいかい葉月。ピアノと同じだ。やるなら基礎からだ。火加減できないうちは煮物なんて作れない。まずはお母さんに頼んで基礎を勉強するんだ」

「はい……」

「どうしても何か持っていきたいなら、塩を振ったキュウリを切ってつめておくといい。自分で食べられないものは人に出さない。ちゃんと味見してからつめるように」

「…………うん」
 
 しゅんとした様子で、葉月はまな板を取り出した。

 
「すまなかったね、響司くん。レッスンを続けよう」

「あ、はい」
 
 ピアノの前に戻りながら、さっきの光景を思い出す。

 冷凍食品をつめるでなく、お母さんに作ってもらうでもなく、自分で作るなんて。

 葉月、そんなに沢のこと好きなんだな。