当て馬の矜持 ー嘘吐きな僕らの協奏曲《コンチェルト》ー

「なにしてるんだ、葉月」

「ひぁあ、お父さん、響司くん! こ、これは、違うの!!」

 葉月は慌てて火を止め、鍋つかみで鍋をシンクに放り込んで、水をかけた。

 ブシュー! という音とともに鍋から白い煙があがる。


 そして、こちらを見てぎこちなく笑った。

「えへへ。その、ちょっと……料理、しようかなって」

「ふだん皿洗いすら手伝わないのに、料理だって? どういう風の吹き回しだい?」

「うっ……」

 大地先生はため息をついて葉月に問いかける。

「で、これは何?」

「…………いもの煮っころがし」

「この炭が?」

 黒い塊を見下ろして、大地先生は容赦なく言い切る。

 普段は温厚だけれど、先生モードのときの大地先生は容赦ない。

 指導者の顔をしている。
 
 少しの沈黙のあと、葉月が目を泳がせながらつぶやいた。

「……友だちがね、お昼にパンしかたべてないから」

「何?」

「……なんか、持っていこうかなって……」

 その言葉に、大地先生の動きが一瞬止まる。

 それから、呆れたように肩を落とした。