当て馬の矜持 ー嘘吐きな僕らの協奏曲《コンチェルト》ー

 気のせい?

 けど、演奏を続けるうちに、それはどんどんとはっきりしてくる。

「……焦げ臭い?」

 僕が顔を上げるのとほぼ同時に、大地先生も眉をひそめる。

「……なんだ、この臭い。那月(なつき)は買い物に行っているからいないはずだし。となると葉月か? なにをしているんだ?」

 大地先生は訝しげな顔をして、レッスン室の扉を開ける。

 廊下に出た瞬間、焦げ臭さは一気に強くなった。

「葉月!」

 大地先生が早足にキッチンへ向かう。
 僕も後を追った。
 
 キッチンでは、葉月がコンロの前で右往左往していた。

 コンロの上の鍋は真っ黒くなっている。