妹さんへのプレゼント探しは難航した。いや、正確には難航したというより、遥がどこへ行っても仁に似合うものを探そうとするので、進まなかったというべきか。服屋に行っても、雑貨屋に行っても。遥が選ぶのはどれも仁がいいなと思ったものばかりだった。
妹さんのプレゼントを探しにきてるんだよな、と疑いの視線を送れば遥は笑って誤魔化した。彼曰く、「妹のプレゼントは後でも探せるから」とのことだ。ということはなんだ、自惚れなんかじゃなければ自分の推し——遥は自分と出かけたかったということになるのか?
いや、そんなわけない。
そんなわけないはずなのに、蕩けるような飴色の瞳が優しい眼差しで仁のことを見ているのを肌で感じると、どうにも気持ちが落ち着かなくなる。
仁は自分の動揺を悟られないように、目に入ったカフェに向かって「ちょっとあそこ寄ろう!」と指差す。そして、繋がれたままだった遥の手を照れ隠しのように引っ張って連れて行く。後ろで遥が驚きながらも、幸せそうに笑っていたのは目に入らなかったが。
煌びやかな店の並びの中に、そのカフェはひっそりと佇んでいた。木目調の扉に、手書きの店名が記された小さな看板。通り側にある窓から見える店内は、木製のテーブルと形の違う椅子がいくつか並び、観葉植物がさりげなく彩りを添えていた。
店内に入ると、カウンターの向こうで店主らしき男性がコーヒーを淹れている。店内には豆を挽く音と軽快なジャズが流れ、香ばしいコーヒーの匂いと焼き菓子の甘い香りが混じっていた。
「いらっしゃい」
カランと小さなベルの音で店主が顔をあげる。低く掠れた声に貫禄が表れていた。店主は「好きな席へどうぞ」と店内へ視線を送った。
思わず入った店だったが、雰囲気が良くて仁はすぐに気に入る。ちょっとした隠れ家を見つけたようなワクワクとする気持ちのまま、「どこに座る?」と遥の方を見上げる。遥は一瞬、何かに驚いたように目を見開いたが、すぐに柔和な笑みを浮かべると「せっかくだからお店の中を眺められる場所にしようか」と答えた。仁は遥の提案に顔を輝かせながら頷く。
「それなら、あそこの席が一番店内を見渡せますよ」
店主が二人の会話からおすすめの席を教えてくれた。仁は「ありがとうございます」と感謝の気持ちを伝えてから、おすすめされた席に向かう。
席に着いたタイミングで店主がお水とおしぼりを持ってきてくれた。冷えた水の気持ちよさと、おしぼりの温かさに疲れが一気に吹き飛んでいくようだった。
「仁は何を頼むの?」
遥が手書きのメニューを開きながら仁に見えやすいようにテーブルに置く。遥の方からだとメニューは反対になってよく見えないはずなのに、気にする様子もなく平然としている。そういう小さな気遣いができる遥のことを仁は純粋にいいなと思う。
仁は遥の手からメニューを取ると、横向きにおいて二人で見えるようにする。こっちの方が二人で一緒に考えられるだろうから。
「ありがとう、仁」
「べ、別に! 大したことなんて、何も……」
「小さな気遣いが嬉しいんだよ。さすが、仁だね」
それはお前の方だ、という言葉は寸前のところで飲み込んだ。あえて遥の気持ちを否定するようなことを言わなくてもいい。
「俺はオレンジジュースかな。あ、こっちの焼き菓子セットも美味しそう!」
「仁はコーヒー飲めないの?」
「飲めないっていうか、ちょっとだけ苦手っていうか」
決して飲めないわけじゃないぞ、という気持ちからお茶を濁すような言葉しか出てこない。
「甘いのが好き?」
「……まぁ、そんなところ」
甘党だと認めるのがちょっとだけ嫌だったが、推しに嘘もつきたくなかった。そんな仁の葛藤を見破ったのか遥は楽しそうに笑っていた。推しが笑ってくれるのなら、まぁいいか、と仁も口元を緩める。
結局、仁はオレンジジュースを、遥はブラックのコーヒーを頼み、二人で焼き菓子セットを食べることにした。
商品が運ばれてくるまでの間に、仁はずっと心の中で温め続けていた質問をいつ言おうかと考え続けていた。だから、「仁は、普段どんな写真を撮ってるの?」と遥に聞かれた時、一瞬何を言われたのか分からなくなった。
「え、っと。そんな大したものじゃない。その辺の雑草とか、なんとなくいいなって思った空の様子とか」
「今、その写真はないの?」
「えぇ、普段は一眼レフで撮ってるから……まぁ、スマホでも撮る時あるけど」
「スマホの写真でもいいよ。仁が撮った写真が見たいな」
思いつくまま撮った、構図もクソもない写真を見てどうするつもりなんだ。そんなことを思いながらも推しの頼み事に『ノー』が言えない仁はおずおずとズボンのポケットからスマートフォンを取り出す。そして、そこではたと気がつく。
今のホーム画面は、以前食堂で遥と撮ったツーショット写真であることに——。
「仁? どうしたの?」
「——っえ!? あ、いや……」
どうしようという思いから視線が彷徨う。画像フォルダだけ見せれば大丈夫か、と考えるが何かの誤操作でホーム画面が映されてしまったら仁はおとなしくこの首を差し出すしかなくなる。常日頃から推しに殺されるなら本望だ、とか言ってるくせに、こんな最後は流石に望んでなかった。
「あんまり、見せたくない?」
「違うっ! ……けど、その」
困ったように目尻を下げる遥を見て、咄嗟に大きな声が出てしまう。変な誤解をさせて推しを悲しませたくなかった。
数分、葛藤した後、仁は「笑うなよ」と言ってホーム画面を映したままスマートフォンを遥に差し出す。どうせいつかバレるのなら、自分から首を差し出せばいいのだ。
遥は差し出された画面を見て、目を見開いた。数瞬、遥の動きが止まる。仁はできることなら一思いに罵ってくれ、と心の中で願いながら沙汰を待った。だけど、いつまで経っても遥は何も言わず、不思議に思った仁がこっそり遥の様子を伺う。
「——え」
妹さんのプレゼントを探しにきてるんだよな、と疑いの視線を送れば遥は笑って誤魔化した。彼曰く、「妹のプレゼントは後でも探せるから」とのことだ。ということはなんだ、自惚れなんかじゃなければ自分の推し——遥は自分と出かけたかったということになるのか?
いや、そんなわけない。
そんなわけないはずなのに、蕩けるような飴色の瞳が優しい眼差しで仁のことを見ているのを肌で感じると、どうにも気持ちが落ち着かなくなる。
仁は自分の動揺を悟られないように、目に入ったカフェに向かって「ちょっとあそこ寄ろう!」と指差す。そして、繋がれたままだった遥の手を照れ隠しのように引っ張って連れて行く。後ろで遥が驚きながらも、幸せそうに笑っていたのは目に入らなかったが。
煌びやかな店の並びの中に、そのカフェはひっそりと佇んでいた。木目調の扉に、手書きの店名が記された小さな看板。通り側にある窓から見える店内は、木製のテーブルと形の違う椅子がいくつか並び、観葉植物がさりげなく彩りを添えていた。
店内に入ると、カウンターの向こうで店主らしき男性がコーヒーを淹れている。店内には豆を挽く音と軽快なジャズが流れ、香ばしいコーヒーの匂いと焼き菓子の甘い香りが混じっていた。
「いらっしゃい」
カランと小さなベルの音で店主が顔をあげる。低く掠れた声に貫禄が表れていた。店主は「好きな席へどうぞ」と店内へ視線を送った。
思わず入った店だったが、雰囲気が良くて仁はすぐに気に入る。ちょっとした隠れ家を見つけたようなワクワクとする気持ちのまま、「どこに座る?」と遥の方を見上げる。遥は一瞬、何かに驚いたように目を見開いたが、すぐに柔和な笑みを浮かべると「せっかくだからお店の中を眺められる場所にしようか」と答えた。仁は遥の提案に顔を輝かせながら頷く。
「それなら、あそこの席が一番店内を見渡せますよ」
店主が二人の会話からおすすめの席を教えてくれた。仁は「ありがとうございます」と感謝の気持ちを伝えてから、おすすめされた席に向かう。
席に着いたタイミングで店主がお水とおしぼりを持ってきてくれた。冷えた水の気持ちよさと、おしぼりの温かさに疲れが一気に吹き飛んでいくようだった。
「仁は何を頼むの?」
遥が手書きのメニューを開きながら仁に見えやすいようにテーブルに置く。遥の方からだとメニューは反対になってよく見えないはずなのに、気にする様子もなく平然としている。そういう小さな気遣いができる遥のことを仁は純粋にいいなと思う。
仁は遥の手からメニューを取ると、横向きにおいて二人で見えるようにする。こっちの方が二人で一緒に考えられるだろうから。
「ありがとう、仁」
「べ、別に! 大したことなんて、何も……」
「小さな気遣いが嬉しいんだよ。さすが、仁だね」
それはお前の方だ、という言葉は寸前のところで飲み込んだ。あえて遥の気持ちを否定するようなことを言わなくてもいい。
「俺はオレンジジュースかな。あ、こっちの焼き菓子セットも美味しそう!」
「仁はコーヒー飲めないの?」
「飲めないっていうか、ちょっとだけ苦手っていうか」
決して飲めないわけじゃないぞ、という気持ちからお茶を濁すような言葉しか出てこない。
「甘いのが好き?」
「……まぁ、そんなところ」
甘党だと認めるのがちょっとだけ嫌だったが、推しに嘘もつきたくなかった。そんな仁の葛藤を見破ったのか遥は楽しそうに笑っていた。推しが笑ってくれるのなら、まぁいいか、と仁も口元を緩める。
結局、仁はオレンジジュースを、遥はブラックのコーヒーを頼み、二人で焼き菓子セットを食べることにした。
商品が運ばれてくるまでの間に、仁はずっと心の中で温め続けていた質問をいつ言おうかと考え続けていた。だから、「仁は、普段どんな写真を撮ってるの?」と遥に聞かれた時、一瞬何を言われたのか分からなくなった。
「え、っと。そんな大したものじゃない。その辺の雑草とか、なんとなくいいなって思った空の様子とか」
「今、その写真はないの?」
「えぇ、普段は一眼レフで撮ってるから……まぁ、スマホでも撮る時あるけど」
「スマホの写真でもいいよ。仁が撮った写真が見たいな」
思いつくまま撮った、構図もクソもない写真を見てどうするつもりなんだ。そんなことを思いながらも推しの頼み事に『ノー』が言えない仁はおずおずとズボンのポケットからスマートフォンを取り出す。そして、そこではたと気がつく。
今のホーム画面は、以前食堂で遥と撮ったツーショット写真であることに——。
「仁? どうしたの?」
「——っえ!? あ、いや……」
どうしようという思いから視線が彷徨う。画像フォルダだけ見せれば大丈夫か、と考えるが何かの誤操作でホーム画面が映されてしまったら仁はおとなしくこの首を差し出すしかなくなる。常日頃から推しに殺されるなら本望だ、とか言ってるくせに、こんな最後は流石に望んでなかった。
「あんまり、見せたくない?」
「違うっ! ……けど、その」
困ったように目尻を下げる遥を見て、咄嗟に大きな声が出てしまう。変な誤解をさせて推しを悲しませたくなかった。
数分、葛藤した後、仁は「笑うなよ」と言ってホーム画面を映したままスマートフォンを遥に差し出す。どうせいつかバレるのなら、自分から首を差し出せばいいのだ。
遥は差し出された画面を見て、目を見開いた。数瞬、遥の動きが止まる。仁はできることなら一思いに罵ってくれ、と心の中で願いながら沙汰を待った。だけど、いつまで経っても遥は何も言わず、不思議に思った仁がこっそり遥の様子を伺う。
「——え」



