推しが恋人になるなんてお断りです!

 澄み切った空には雲一つだって存在しない。頭上から燦々と降り注ぐ日光は確実に仁の体力を奪っていく。

 いわゆる猛暑日と言われる日に、それでも外にいる理由。それはたった一つしかない。

「仁ー! お待たせ!」

 両手にソフトクリームを持った遥が笑顔で片方を差し出す。太陽の光よりも眩しいその笑顔に、仁は天にも昇るような気持ちで心の中で合掌する。

 仁がおずおずとソフトクリームを受け取れば、遥は体が触れるくらい近くに座った。恐れ多くて逃げ腰になるが、「我慢しろ。推しからのファンサを拒むべからず」と心の中で唱えてグッと堪える。いつぞやのツーショは拒んだじゃないかって? それはそれ、これはこれ、だ。

 そんな心の葛藤を見透かすように遥はニコニコと笑い、なぜか仁の頬にかかった髪を耳にかけてきた。なんだそのファンサは。自分の知らないファンサを編み出すのはやめてくれ。

「今日はありがとうね、買い物に付き合ってくれて」
「……べ、別に、大したことじゃないし……どうせやることないし……」

 写真部に入っている仁は週末になると部活が休みだから特にやることはなかった。それよりもバスケ部に入っている遥の方が忙しいはずなのに、よく時間が作れたな、と感心する。

「今日、部活は休みの日なんだよね。体を休めるのも自己管理の一つだ、って顧問が言うんだ」
「そういうものなのか」

 仁の頭の中を覗いたかのように、遥は的確に仁の疑問に答えてくれる。なんでわかったのかはこの際気にしないでおく。

「もうすぐ妹の誕生日でさ。何か買ってあげたくて」
「……でも、俺じゃ何がいいとかは、わからないと思うけど」
「まぁ、そこは、ね。どっちかというと、仁と一緒に出かけたかっただけだから大丈夫」

 遥がいたずらが成功した子供のように口元を綻ばせる。仁は頭をフリーズさせながら、ぽかんとした顔で遥の方を見上げた。


 ——今、なんて、言った?


 仁の視線から言いたいことを察したのか、遥は目を細めるとソフトクリームを持っていない方の手を仁の肩に回す。さっきよりも密着した体に、仁の体は石のように固まった。


「つまり、仁とデートがしたかったんだ」


 耳朶をくすぐるような甘い声で囁かれ、買い物が始まる前から仁のキャパシティは限界を迎えたのだった。