推しが恋人になるなんてお断りです!

「好きだから。付き合ってくれない?」


 耳に飛び込んできたセリフが理解できなくて、脳がフリーズする。

「ねぇ、聞いてる?」

 いや違う。近づいてきた面のいい顔があまりにも推しすぎて、何も考えられなくなってしまったのだ。なんとなく柑橘系のいい匂いがするし、本当になんだこの人——あぁ、俺の推しか。

「おーい? 流石に無反応だと僕も傷つくよ?」

 知っていたことだが、この面の良さを持っていながら一人称が『僕』なのもポイントが高い。つまり、今日も推しは尊く、俺の世界を救ってくれていた。

「……はぁ、そっちがその気なら——」

 推しの顔が眼前に迫ってくる。あいにく俺の背中には校舎の硬いコンクリートが控えているため、俺から距離を取ることは難しい。それなら横に逃げればいい? ふっ、甘いな。俺の推しは俺が逃げられないように両手を壁について俺を囲っているのだ。


 いや待て、それは結構ヤバい状況なのでは——?


 そんなことを脳内で喋り続けながら、この状況から現実逃避をしていれば、唇にフニッとした感触がした。一瞬だけ触れたそれはすぐに離れていったが、推しの顔面は文字通り目と鼻の先にある。吐息を肌で感じて俺の脳はショート寸前だ。



「あはは、奪っちゃった——仁のファーストキス」



 楽しげに、頬をうっすらと赤く染めながら笑う推しに、なんでそんなことを知っているんだとか、いきなり何しているんだ、とか、言いたいことはたくさんあった。あったのだが、俺の口から飛び出たのは、全く違う言葉だった。




「——っ、推しと恋人になるなんて解釈違いです!」