つぶらな瞳の子犬は、大型犬になって10年分の愛を捧ぐ。

 数秒前のテンションはどこへやら……今度はムッとした顔でコチラを見下ろしている。最近の若者は、情緒がジェットコースターなのだろうか。

「……羨ましいんだ」
「そりゃ、モテないよりモテるほうがいいに決まってるだろ」
「……ふーん……」

 納得いかないというオーラを頭上からヒシヒシと感じつつも、俺は気付かぬフリをした。ツッコんだら面倒なことになるぞ――本能がそう警告している気がしたから。

「……いらないのに、京ちゃん以外」
「あ? 何か言ったか?」
「……別に」

 フンと顔を逸らされた。はぁ……と溜息をつきながら、俺はポリポリと頭を掻いた。やっぱり心は、まだまだ《まーくん》のままのようだ。

「……お、もう始まる時間――」

 俺の言葉を遮るように、パッと大輪の華が夜空に咲いた。同時に、周りからワァー!と歓声があがる。

「やっぱ花火はいいよなー」
「……京ちゃん」
「ん?」
「昔オレが言ったこと……覚えてる?」

 花火が散っていく音を聞きながら、遠い昔に想いを馳せた。……意外と、俺は物覚えがいいらしい。

「ああ、『大きくなったらけーちゃんと結婚するー!』ってやつか?」

 隣からグッと緊張する気配を感じたのは、気のせいではないだろう。

「可愛かったよなーお前。……ん、あれ?」

 そういえば、俺は何て返したのだろうか――少し前まで「物覚えがいいらしい」なんて思っていた自分を殴りたい。

「……俺、何て言ったっけ?」
「『ガキンチョには興味ない』って」
「……うわっ大人げねー……」

 我ながら思う――何と小憎らしい中学生だろうか、と。

「……ねえ、京ちゃん」
「ん……――」

 一際大きい花火が閃光とともにパッと咲いて、優斗の顔を照らした――真っ直ぐな視線が、俺を捕らえて離さない。

「大きくなったよ、オレ。だから――」

 グッと凛々しい顔が迫る――近くで見てみれば、瞳の奥のキラキラは、あの頃のまま。

「俺のお嫁さんになって?」