つぶらな瞳の子犬は、大型犬になって10年分の愛を捧ぐ。

「こんばんは。……あ、京ちゃん甚平だ」
「……おう」

 迎えのチャイムに出ると、浴衣姿の優斗が立っていた。襟元からスッとのびる長い首に、ガッチリした体躯ながらも色気を漂わせるなで肩――憎らしいほどに似合っていた。

「可愛い」
「……おいコラ」

 完全に男として負けている気がした……悔しいかな。

(時の流れって残酷すぎる……)

「男が可愛いって言われても嬉しくねぇ」

 バツが悪くなってプイと顔を逸らすと、優斗はお構いなしといった顔で近寄ってきた。

「だって、可愛いんだもん」
「もんってお前な……まあいいや、ほら行くぞ」

 これ以上言っても埒があかないと踏み、俺は優斗の手を引いて歩きだした。なんてことはない、ごくごく自然な流れ──そう、昔のように(・・・・・)

「……け、京ちゃん」
「何?」

 昼間の勢いはどこへいったのか――振り向けば、優斗が顔を赤くして何とも言えない表情を浮かべていた。

「……手」
「あ? ……――あ」

 完全に無意識だった――つい昔のクセで、手を握ってしまっていた。……そうだった、もうあの頃の小さいまーくんじゃないんだった。

「すまん」

 パッと手を離すと、なぜか優斗はシュンと残念そうな顔をした。

「……いいのに、このままでも」
「……」

 ポツリと零れたその言葉を、俺は聞こえないフリをした。図体はデカくなっても、心は《まーくん》のままなのかもしれない。

――だとしたら、非常に厄介だ……。

 ギャップに脳の処理が追いつかない……。まったく、情けない限りだ。

「……ねえ見て、イケメン~」
「本当だ、背高~い」

 当の大型わんこといえば、すれ違う浴衣女子たちからの熱い視線を集めまくっていた。いやまあしかし……あの可愛らしい少年が、よくここまで男前に成長したものだ。

(親戚のオッチャンかよ、俺は……)

「……何? そんなに見つめられると、照れるんだけど」
「男前に成長したなー……って、感慨にふけってたの」

 俺の何気ない言葉に、ピタリと優斗は足を止めた。

「ん、どうし──」
「本当!? オレ男前になった!?」

 不意にズイッと顔を寄せられ、思わず仰け反ってしまった。距離感バグっているのも、昔のままだ。

「馬鹿! ち、近い!」
「だって嬉しくて」

 飼い主に褒められた大型犬の如く、優斗は満面の笑みで尻尾を振った──ように見えただけだ、もちろん。

「実際さっきから女子の視線、独り占めしてるからな。あー羨ましいー」
「……」

 またしても俺の何気ない言葉に、ピタリと優斗の足が止まった。しかし今回は、漂うオーラが違う。

「……ど、どうした?」