「あと何回、この花火を君と見られるんだろうね」
暗闇に、彼の横顔がパッと浮かび上がった。綺麗だ――額縁に閉じ込めて、ずっと眺めていたいと思うほどに。
「……アンタが100歳で死ぬと仮定したら、あと70回は見られるな」
「……君って本当に馬鹿だね」
ムッと視線を下げれば、フフッと笑う――けれど今にも泣きそうな――顔と目が合った。
「ごめんね。夏祭り、行きたかったでしょ。花火だって、もっと近くで見たかっただろうに」
マンションの屋上──夏祭りの喧騒が遠くから聞こえる。また一輪、大きな花が夜空に咲いた。
「関係ねえよ、場所なんて」
正直なところ、夏祭りも花火もどうでもよかった。ただこの人と、一緒にいられれば……それだけでよかった。
「……君はまだ若いし、未来がある」
「またそれかよ」
ピクリと、細い肩が震えた気がした。形の良い唇が、フッとほころぶ。
「何度も言うよ。30代のオッサンなんかより、君には……年相応の可愛い女の子が似合うよ」
「それ、本気で言ってんならマジで怒りますよ」
口を開けば年の差だの、男同士だの、ああだこうだ言ってくる。馬の耳に念仏という言葉を、この人が知らないはずないのに。
「……君の貴重な時間を、俺で食い潰してほしくないんだよ」
「時間がないみたいな、言い方すんな」
祭りを楽しむ人々の弾けるような声が、生温い風に乗って聞こえた気がした。
──いらない、そんなもの。
煙る空を見上げれば、うっすらと煌めく天の川を挟んで向かい合う一等星。
1年なんて待てない。オレはそんなに辛抱強くない。1秒だって無駄にしたくない。
「……打ち上げ花火だ、君の気持ちは」
「またそんな言い方」
現国教師とは、皆こうなのだろうか。やたらと婉曲的に物事を言いたがる。特にこの人は、俺が現国の成績が悪かったことを知った上で言っている。
「パッと咲いて、パッと散る」
今まさに目の前で大輪の華が咲いて――散った。
「違う」
しゃがんで、目線を合わせる。ギィという車輪の音が、火薬の爆ぜる音に消えた。
「線香花火」
「――え?」
現国教師だったアンタが、線香花火のもつ意味を知らないなんて言わせない。
長い睫毛が震えた。ハンドトリムを持つ手が、ギュッと強張る。
「……泣いてんの?」
「……君が、馬鹿なことばかり言うから」
少し乱れた膝上のタオルケットをかけ直してやる。申し訳なそうに、でも少し嬉しそうに、眉尻を下げた。
「夏祭りなんて行けなくていい、花火だって見られなくてもいい……その代わり」
そっと頬に触れると、驚くほど冷たかった──でも、それも一瞬だった。青白い肌が、みるみるうちに上気していく。
「オレは聞き分けのいい良い子じゃねえから、毎日天の川を泳いで会いに行くよ」
「……っ」
大きな目が、これでもかというほど見開かれる。瞳の中に、オレの姿が見えるくらいに。
「残りの人生、全部オレにちょうだい」
暗闇に、彼の横顔がパッと浮かび上がった。綺麗だ――額縁に閉じ込めて、ずっと眺めていたいと思うほどに。
「……アンタが100歳で死ぬと仮定したら、あと70回は見られるな」
「……君って本当に馬鹿だね」
ムッと視線を下げれば、フフッと笑う――けれど今にも泣きそうな――顔と目が合った。
「ごめんね。夏祭り、行きたかったでしょ。花火だって、もっと近くで見たかっただろうに」
マンションの屋上──夏祭りの喧騒が遠くから聞こえる。また一輪、大きな花が夜空に咲いた。
「関係ねえよ、場所なんて」
正直なところ、夏祭りも花火もどうでもよかった。ただこの人と、一緒にいられれば……それだけでよかった。
「……君はまだ若いし、未来がある」
「またそれかよ」
ピクリと、細い肩が震えた気がした。形の良い唇が、フッとほころぶ。
「何度も言うよ。30代のオッサンなんかより、君には……年相応の可愛い女の子が似合うよ」
「それ、本気で言ってんならマジで怒りますよ」
口を開けば年の差だの、男同士だの、ああだこうだ言ってくる。馬の耳に念仏という言葉を、この人が知らないはずないのに。
「……君の貴重な時間を、俺で食い潰してほしくないんだよ」
「時間がないみたいな、言い方すんな」
祭りを楽しむ人々の弾けるような声が、生温い風に乗って聞こえた気がした。
──いらない、そんなもの。
煙る空を見上げれば、うっすらと煌めく天の川を挟んで向かい合う一等星。
1年なんて待てない。オレはそんなに辛抱強くない。1秒だって無駄にしたくない。
「……打ち上げ花火だ、君の気持ちは」
「またそんな言い方」
現国教師とは、皆こうなのだろうか。やたらと婉曲的に物事を言いたがる。特にこの人は、俺が現国の成績が悪かったことを知った上で言っている。
「パッと咲いて、パッと散る」
今まさに目の前で大輪の華が咲いて――散った。
「違う」
しゃがんで、目線を合わせる。ギィという車輪の音が、火薬の爆ぜる音に消えた。
「線香花火」
「――え?」
現国教師だったアンタが、線香花火のもつ意味を知らないなんて言わせない。
長い睫毛が震えた。ハンドトリムを持つ手が、ギュッと強張る。
「……泣いてんの?」
「……君が、馬鹿なことばかり言うから」
少し乱れた膝上のタオルケットをかけ直してやる。申し訳なそうに、でも少し嬉しそうに、眉尻を下げた。
「夏祭りなんて行けなくていい、花火だって見られなくてもいい……その代わり」
そっと頬に触れると、驚くほど冷たかった──でも、それも一瞬だった。青白い肌が、みるみるうちに上気していく。
「オレは聞き分けのいい良い子じゃねえから、毎日天の川を泳いで会いに行くよ」
「……っ」
大きな目が、これでもかというほど見開かれる。瞳の中に、オレの姿が見えるくらいに。
「残りの人生、全部オレにちょうだい」
