王子様と呼ばれる先輩を餌付けしたら、毎日会いに来るようになりました。

 翌朝、僕はいつものようにお弁当を作り、おかずを詰めていく。

「直、おはよ……お弁当大きくない?」
「あれ……?」

 なぜか普段使うお弁当箱よりも、一回り大きいものにおかずを詰めていた。

「ふふっ、直も食べ盛りなのね」

 母さんがくすりと笑い、朝の支度をしていた。
 改めて見比べると、確かに昨日までより少し大きい。

「お腹が空いてるのかな……」

 なんでお弁当箱を大きくしたのかは、自分でもわからない。
 ただ、今日はいつもよりたくさん食べられるような気がして、無意識におかずも多めに作ってしまったみたいだ。

「まあ、食べきれなかったら悠人にあげればいいか」

 そう呟き、お弁当を包んで鞄へしまう。
 そのまま家を出て、自転車に乗って学校へ向かう。
 普段よりも大きなお弁当箱を入れたリュックは、肩に重みがかかる。

「いけいけ、王子様!」
「ファイトー!」

 今日も体育館からはバスケ部を応援する声が聞こえてくる。
 自転車を置き、教室へ向かう。

 授業が始まれば、朝の出来事もすっかり頭の隅へ追いやられた。
 気づけば四時間目も終わり、昼休みを知らせるチャイムが鳴り響く。
 僕はリュックからお弁当を取り出した。

「じゃあ、直行ってくるわ!」
「いってらっしゃい……?」

 座って待っていると、悠人は声をかけてきた。
 すぐに教室から出ていく悠人の後ろ姿を見ていると、昨日のことを思い出す。

「あっ……ミーティングをするから悠人とお昼食べないじゃん……」

 しばらくバスケ部の同級生とミーティングをするから、学食に行くって言っていたのを忘れていた。
 そして、僕も朝陽先輩と一緒に食べる約束をしていたっけ。
 あれだけ考えていたのに、忙しいとふと忘れちゃうものなんだね。

「朝陽先輩に食べてもらえばいいか」

 僕もお弁当を持って教室から出て行く。

「一緒に食べるって言ってたけど、どこに行けばいいんだ?」

 食べる場所までは聞いていない。
 朝陽先輩の教室に行くのも、学年が違うから上の階に行くのも気まずいし……。
 とりあえず、昨日会った校舎裏に向かうと、すでに座って待っている朝陽先輩がいた。

「直、迷子になってた?」

 そう言いながら、ベンチの横をトントンと叩く朝陽先輩。
 僕はゆっくりと隣に座る。

「いや……どこで食べるか聞いてなかったなと」
「あっ、確かに」

 何も決めてなかったことに朝陽先輩はクスリと笑う。

「じゃあ、これから(・・・・)はここが集合場所ね」
「これから……ですか?」
「うん」

 朝陽先輩は気にすることなく頷き、今日もパンの袋を開けて食べていた。
 今日はソーセージが載ったパンを食べているようだ。
 僕も気にすることなく、お弁当の蓋を開ける。

「あれ? お弁当大きくなった?」

 今日も朝陽先輩の視線はお弁当に降り注ぐ。

「気づいたら作りすぎちゃって……」

 改めて見ても、一人で食べるには少し多い気がする。

「食べきれそうにないので、よかったら食べます?」
「いいの?」
「このまま残すのももったいないですし」

 僕はお弁当を朝陽先輩の方へ向けると、こくりと頷いた。

「じゃあ、一口だけもらおうかな」

 箸を渡そうとすると、朝陽先輩は首を横に振った。

「食べていいですよ?」
「いや……それじゃあ、直が食べられないだろ?」

 言われてみたら朝陽先輩に箸を渡したら、僕の食べる時間がなくなっちゃうか。

「ほら! あーん!」

 口を開けて待つ朝陽先輩。
 僕は言われた通りに、朝陽先輩の口に卵焼きを入れる。

「うん、やっぱり甘くて美味いな」

 モグモグと食べる朝陽先輩。
 ちゃんと味の感想をその都度言ってくれるから、お弁当を作る僕としては今後の参考にもなりそうだ。
 ただ、ソーセージパンと交互に食べているけど、合うのだろうか。

「朝陽先輩はいつもパンなんですか?」
「ああ、俺の母親が夜勤専属の看護師だから忙しいんだよ」

 朝陽先輩はパンを一口かじりながら、あっさりと言った。

「夜は仕事で家にいないことが多いし、朝は帰ってくる前に俺が家を出ちゃうからさ。だから、簡単に食べられるパンで済ませることが多いんだ」
「そうだったんですね……」

 昨日もパン持っていた理由はそうだったのか。
 毎日同じようなものを食べていて飽きないのかなと少し気になった。
 お店の惣菜でも少し味を変えたり、新商品も毎月作って出している。
 コンビニで買っているパンは美味しいけど、似たようなものばかり食べていそうだし……。

「パンも好きだから気にしてないよ」

 僕の表情を見た朝陽先輩は、困らせないようにと笑って付け加える。
 それでも惣菜屋の息子としては栄養が偏っているように思えてしまう。

「だったら……」

 気づけば言葉が口からこぼれていた。

「明日から少し大きいお弁当にしますね」
「……えっ!?」

 朝陽先輩は驚きその場で立ち上がっていた。
 
「どうせ作りすぎちゃうので、一緒に食べてもらえたら助かります」

 朝陽先輩は目を丸くしたあと、ふっと笑う。

「それ、直が大変じゃない?」
「大丈夫ですよ。作るのは好きですし。それにバスケ部のエースがちゃんと食べないとみんなが困りますからね」
「俺がバスケ部のエースだって知ってたのか……」

 小さく呟く朝陽先輩の言葉に僕は頷く。
 悠人に朝陽先輩について聞いた時に、バスケ部のエースだって言ってたからね。
 それにあれだけ応援する人がいたら、自然に気づくだろう。
 朝陽先輩は少し恥ずかしそうに口元を手で覆い隠し、そっぽを見ていた。

「別に気にしなくていいですからね。朝陽先輩が食いしん坊なのは知ってますから!」

 僕は親指を立てて、朝陽先輩に向ける。
 よほどお弁当を作ってもらうのが嬉しいんだね。

「……食いしん坊ね」

 朝陽先輩は少し首を傾げながら、再びベンチに腰をかけた。

「違いました?」
「いや、間違ってはいないけど」

 朝陽先輩はどこか納得していない顔をしていた。
 食いしん坊じゃないと僕の手から食べない気がするんだよね。
 いつもコロッケを食べる時は待ちきれなくて食べているし。

「……じゃあ、お願いしようかな」
「はい」
「もちろん材料代は払うから」
「えっ、そんな気にしなくて――」
「そこは譲れない!」

 真剣な顔で言われてしまい、僕は苦笑いしながら頷くしかなかった。