休み明けの学校では、僕の周囲に少しずつ変化があった。
「この間のコロッケ美味かった」
「あの美味しさのコロッケが80円で食べられるとは思わなかったよ!」
「また今度寄らせてもらうな!」
なぜかバスケ部員に囲まれるようになった。
悠人が連れてきた友達だが、コロッケの美味しさに惹かれたのだろう。
「ああ、いつでも来てくれ!」
「悠人が言うんかい!」
隣で僕と肩を組む悠人が嬉しそうに笑っていた。
お客さんが増えるのは嬉しいけど、バスケ部ばかり立ち寄るお店になりそうだ。
「おっ、王子先輩また告白されてるぞ」
次の授業が移動教室のため、廊下を歩いていると、校舎裏に王子様と女子生徒が二人で立っていた。
「今月で3回目じゃないか?」
「まだ上旬だよ?」
やはり王子様と呼ばれるだけあって、告白する女子生徒は絶え間なく現れるらしい。
それも同じ学校だけではなく、他校の生徒にも告白されているとか。
「悠人とは違うね」
羨ましそうに見ている悠人に僕はクスリと笑う。
「なっ!? 俺は男に好かれているからな!」
そんな誤解を招くような冗談を言っていいのだろうか。
他のバスケ部員たちは悠人から離れるように全力で走っていく。
「おい、お前ら逃げるなよ!」
「俺には彼女がいるから無理だ!」
「俺も悠人だけは無理だ!」
悠人の周りには元気な人たちが集まるのだろう。
ただ、バスケ部なのもあり、勢いよく走っていくと速いな。
気づいたら僕だけが置いてかれていた。
「おーい、早くしないとチャイムがなるぞ!」
悠人に呼ばれ、僕はすぐに腕時計で時間を確認する。
一番遠い教室だから、ゆっくりしていたら間に合わない。
僕は走り出そうと思った瞬間、ふと窓の外から誰かに見られているような気がした。
「……気のせいか」
さすがに学校では話したことがないため、僕の存在に気づいているのか微妙だしね。
でも、視線を感じた気がしたけど……先生じゃないよね?
僕は悠人を追いかけるように、急いで廊下を歩いた。
走っているところを先生に見られて、怒られるのもめんどくさいからね。
授業が終わり、いつものように急いで自転車置き場に向かう。
「今日も店の手伝い?」
「……僕ですか?」
誰かに声をかけられたと思い、後ろを振り返る。
そこには黒のノースリーブに紺のバスパンを履いた王子様がいた。
今から部活の練習に行くのだろうか。
まさか声をかけられるとは思わず、僕は周囲を見回すが僕以外には誰もいない。
「くくく、君以外に誰がいるの?」
口角を上げて笑う姿に、さらに周囲が気になった。
王子様のファンがたくさんいるからね。
「今日も商店街にいる?」
「あっ、はい。今日もバイトなので……」
それを聞いた王子様はどこか笑みを浮かべていた。
よほどコロッケが好きなんだろう。
「僕が同じ高校に通っていたのは知ってたんですね」
「そりゃー、同じ制服を着ているからね」
「あっ……そうでしたね」
僕は制服にエプロンを着けているから、王子様も僕が同じ学校の生徒だって気づいていたのか。
「じゃあ、急いでるので、王子様も部活頑張ってください」
「王子様……」
僕は急いで自転車に跨り、商店街に向かう。
だけど、王子様がどこか不機嫌そうな顔をしていたのは気のせいだろうか。
そんなことを思いながら、僕は自転車を走らせた。
「母さん、お客さんは来てる?」
「今日もそこそこ売れてるわよ」
僕もエプロンを着けて、母さんと代わる。
夕方は仕事帰りに立ち寄るお客さんが増えてくるからね。
「あっ、そういえば悠人の友達がコロッケ美味しかったって言ってたよ」
「ふふふ、ここのコロッケは味が濃いから男子高校生向けね」
この店で販売しているコロッケは牛と豚の合い挽き肉を使っており、その隠し味にオイスターソースを使っている。
合い挽き肉を使うことで肉の旨味がしっかり出ており、オイスターソースがコクを出す隠し味になっているらしい。
「そういえば、悠人くん意外に顔立ちの良いバスケ部の子が来てるわよね?」
「母さん、よく気づいたね」
「みんな同じカバンを持っているじゃないの」
バスケ部は学校名が記載されている大きなカバンを肩から下げている。
それで母も気づいたのだろう。
「今日もみんなのためにコロッケを準備しなきゃね」
そう言って、母は足りないお惣菜や揚げ物を準備していく。
夕焼けから夜空に染まり始めた商店街を、仕事帰りの人たちが行き交う。
「コロッケ二つお願い」
「ありがとうございます!」
いつものようにお客さんの対応をしていると、人混みの向こうに頭一つ抜けた王子様が目に入った。
目が合うと、なぜか急いで走ってくる。
「今日も来たよ」
王子様は当たり前のように店先へ立つ。
「そんなに急いでどうしたんですか?」
「今日はいつもより練習が長かったから、閉まっちゃうと思って」
額にはまだ汗が残っている。
よほどコロッケが食べたくて急いだのだろう。
「お疲れさまです」
「ありがとう。それで――」
王子様はショーケースを一通り眺める。
「いつものコロッケ残ってますよ」
そう返すと、王子様は少しだけ目を丸くした。
あれだけ美味しそうに食べていたら、コロッケが好きなことぐらい気づくだろう。
「じゃあ、一つください」
どこか照れくさそうに笑う王子様。
僕は揚げたてのコロッケを包装紙に包み、差し出した。
「今日はちゃんと持てます?」
「……」
右手には財布、左手には汗を拭いていたタオル。
その両方を見下ろし、王子様は困ったように笑った。
「あはは……」
「無理そうですね」
結局、今日も王子様は僕の手からコロッケをぱくりと食べた。
「今日もごめんね」
「もう慣れましたよ」
そう言うと、王子様は少し驚いたように僕を見て、嬉しそうに笑った。
「この間のコロッケ美味かった」
「あの美味しさのコロッケが80円で食べられるとは思わなかったよ!」
「また今度寄らせてもらうな!」
なぜかバスケ部員に囲まれるようになった。
悠人が連れてきた友達だが、コロッケの美味しさに惹かれたのだろう。
「ああ、いつでも来てくれ!」
「悠人が言うんかい!」
隣で僕と肩を組む悠人が嬉しそうに笑っていた。
お客さんが増えるのは嬉しいけど、バスケ部ばかり立ち寄るお店になりそうだ。
「おっ、王子先輩また告白されてるぞ」
次の授業が移動教室のため、廊下を歩いていると、校舎裏に王子様と女子生徒が二人で立っていた。
「今月で3回目じゃないか?」
「まだ上旬だよ?」
やはり王子様と呼ばれるだけあって、告白する女子生徒は絶え間なく現れるらしい。
それも同じ学校だけではなく、他校の生徒にも告白されているとか。
「悠人とは違うね」
羨ましそうに見ている悠人に僕はクスリと笑う。
「なっ!? 俺は男に好かれているからな!」
そんな誤解を招くような冗談を言っていいのだろうか。
他のバスケ部員たちは悠人から離れるように全力で走っていく。
「おい、お前ら逃げるなよ!」
「俺には彼女がいるから無理だ!」
「俺も悠人だけは無理だ!」
悠人の周りには元気な人たちが集まるのだろう。
ただ、バスケ部なのもあり、勢いよく走っていくと速いな。
気づいたら僕だけが置いてかれていた。
「おーい、早くしないとチャイムがなるぞ!」
悠人に呼ばれ、僕はすぐに腕時計で時間を確認する。
一番遠い教室だから、ゆっくりしていたら間に合わない。
僕は走り出そうと思った瞬間、ふと窓の外から誰かに見られているような気がした。
「……気のせいか」
さすがに学校では話したことがないため、僕の存在に気づいているのか微妙だしね。
でも、視線を感じた気がしたけど……先生じゃないよね?
僕は悠人を追いかけるように、急いで廊下を歩いた。
走っているところを先生に見られて、怒られるのもめんどくさいからね。
授業が終わり、いつものように急いで自転車置き場に向かう。
「今日も店の手伝い?」
「……僕ですか?」
誰かに声をかけられたと思い、後ろを振り返る。
そこには黒のノースリーブに紺のバスパンを履いた王子様がいた。
今から部活の練習に行くのだろうか。
まさか声をかけられるとは思わず、僕は周囲を見回すが僕以外には誰もいない。
「くくく、君以外に誰がいるの?」
口角を上げて笑う姿に、さらに周囲が気になった。
王子様のファンがたくさんいるからね。
「今日も商店街にいる?」
「あっ、はい。今日もバイトなので……」
それを聞いた王子様はどこか笑みを浮かべていた。
よほどコロッケが好きなんだろう。
「僕が同じ高校に通っていたのは知ってたんですね」
「そりゃー、同じ制服を着ているからね」
「あっ……そうでしたね」
僕は制服にエプロンを着けているから、王子様も僕が同じ学校の生徒だって気づいていたのか。
「じゃあ、急いでるので、王子様も部活頑張ってください」
「王子様……」
僕は急いで自転車に跨り、商店街に向かう。
だけど、王子様がどこか不機嫌そうな顔をしていたのは気のせいだろうか。
そんなことを思いながら、僕は自転車を走らせた。
「母さん、お客さんは来てる?」
「今日もそこそこ売れてるわよ」
僕もエプロンを着けて、母さんと代わる。
夕方は仕事帰りに立ち寄るお客さんが増えてくるからね。
「あっ、そういえば悠人の友達がコロッケ美味しかったって言ってたよ」
「ふふふ、ここのコロッケは味が濃いから男子高校生向けね」
この店で販売しているコロッケは牛と豚の合い挽き肉を使っており、その隠し味にオイスターソースを使っている。
合い挽き肉を使うことで肉の旨味がしっかり出ており、オイスターソースがコクを出す隠し味になっているらしい。
「そういえば、悠人くん意外に顔立ちの良いバスケ部の子が来てるわよね?」
「母さん、よく気づいたね」
「みんな同じカバンを持っているじゃないの」
バスケ部は学校名が記載されている大きなカバンを肩から下げている。
それで母も気づいたのだろう。
「今日もみんなのためにコロッケを準備しなきゃね」
そう言って、母は足りないお惣菜や揚げ物を準備していく。
夕焼けから夜空に染まり始めた商店街を、仕事帰りの人たちが行き交う。
「コロッケ二つお願い」
「ありがとうございます!」
いつものようにお客さんの対応をしていると、人混みの向こうに頭一つ抜けた王子様が目に入った。
目が合うと、なぜか急いで走ってくる。
「今日も来たよ」
王子様は当たり前のように店先へ立つ。
「そんなに急いでどうしたんですか?」
「今日はいつもより練習が長かったから、閉まっちゃうと思って」
額にはまだ汗が残っている。
よほどコロッケが食べたくて急いだのだろう。
「お疲れさまです」
「ありがとう。それで――」
王子様はショーケースを一通り眺める。
「いつものコロッケ残ってますよ」
そう返すと、王子様は少しだけ目を丸くした。
あれだけ美味しそうに食べていたら、コロッケが好きなことぐらい気づくだろう。
「じゃあ、一つください」
どこか照れくさそうに笑う王子様。
僕は揚げたてのコロッケを包装紙に包み、差し出した。
「今日はちゃんと持てます?」
「……」
右手には財布、左手には汗を拭いていたタオル。
その両方を見下ろし、王子様は困ったように笑った。
「あはは……」
「無理そうですね」
結局、今日も王子様は僕の手からコロッケをぱくりと食べた。
「今日もごめんね」
「もう慣れましたよ」
そう言うと、王子様は少し驚いたように僕を見て、嬉しそうに笑った。



