王子様と呼ばれる先輩を餌付けしたら、毎日会いに来るようになりました。

 借り者競争で午前の部が終わり、お昼休憩となった。
 僕は教室で悠人と急いでご飯を食べる。

「あー、ダンス大丈夫かな……」
「もうどうにもならんだろ」

 頭の中は午後一番初めにある応援合戦で頭がいっぱいだ。
 作ってきたはずのカツサンドも手に持ったまま、僕はスマートフォンの動画に釘付けだ。

「直が食べないなら俺が食うからな」

 そう言って、僕のカツサンドを隣で食べ始めた。

「んー、前より美味くなったな」
「もう長いことやってるからね」
「それもそうか!」

 僕の父親が交通事故で亡くなってから料理を始めたから、毎日やっていれば自然と上手になる。
 落ち込んでいた僕を変えたのも料理だし、悠人は勝手にお弁当の中身を突いて、味見をしていたからな。

「そういえば、直って王子先輩と仲が良いのか?」
「仲が良い……?」

 僕は朝陽先輩のことを思い出す。
 仲が良いのかはわからないけど、ここ最近は毎日会っているから、仲が良い方にはなるのだろうか。

「んー、毎日コロッケを食べに来るからかな?」
「そうなんだ」
「いつも我慢できずに僕の手から食べるからね」
「……それって本当に王子先輩なのか?」

 僕は悠人の言葉に動画を止めて、視線を合わせる。

「……今、僕なんて言った?」
「直の手からコロッケ――」

 僕はすぐに悠人の口を手で塞ぐ。
 動画に集中して気づいていなかった。
 バスケ部の後輩である悠人に、あまり見せない朝陽先輩の姿を話してしまった。

「今言ったことは聞かなかったことにしてね。朝陽先輩も人にはバレたくないだろうし」
「ふーん……」

 悠人はそう言って、僕のカツサンドを食べていく。

「でも、直って鈍感だよな」
「何が?」

 悠人は呆れたように笑う。
 僕のどこが鈍感なんだろうか。

「そういうところだよ」

 きっと僕が話してしまったことを言ってるのだろう。
 勝手に人のことを話すなんて最低だからね。

「カツサンドが無くなってるの気づいてるか?」
「……なっ!?」

 気づいたら僕のお弁当箱にはカツサンドがなくなっていた。
 そういえば、目の前にいる親友もかなり大食いなのを忘れていた。

「今すぐ返せ!」
「吐き出そうか? ゲロゲローって」
「そんなのいらねーよ!」

 僕が睨むと、悠人は笑っていた。
 まあ、緊張しすぎて食べる余裕もないから別に問題はないけど。

「ほら、王子先輩が待ってるから着替えに行くぞ」
「ん? 朝陽先輩?」
「名前で呼んでるのか……」

 悠人は僕の腕を掴むと、そのまま応援合戦の控え教室に向かった。


 教室ではすでに同じチームの人たちが準備をしていた。

「ほら、お前たちもすぐに準備しろよー」

 担任の先生に言われ、僕たちも学ランに着替えていく。

「直ちゃんは中学生のままでしゅかー」

 僕の学ラン姿を見て、悠人はいじってくる。
 中学生の時に着ていた制服をそのまま持ってきたけど、あの頃と何も変わってない。

「悠人だって大きさ変わらないじゃん!」
「くくく、よく見てみろ」

 悠人の学ランを見ると、付いているボタンが違った。

「隣の高校から借りたの?」
「ああ、元バスケ部のやつから借りないと丈が足りないからな」

 どうやら成長期は残酷なようだ。
 あとは髪の毛をセットすれば準備は終わりだが、ここからが問題だ。
 
「あまり髪の毛を上げないから難しいね」

 女子生徒はポニーテールに揃えて、男子生徒もオールバックのように髪を上げる予定になっている。

「こんなもんワックスで立ち上げてスプレーで固めたら……って笑うなよ!」
「くくく……だってなんか鶏みたいじゃん」

 悠人は髪の毛を中央に集めて上げたためか、鶏のトサカみたいな髪型になっていた。
 僕はさっきのお返しと言わんばかりに笑う。
 さすがに鶏になるのは気が引けるからね。

「おっ、悠人……くくくお前なんだそれ!」

 髪をセットしていると、バスケ部の先輩たちが朝陽先輩とともに教室に入ってきた。

「あんまりセットしたことないから笑わないでくださいよ!」

 そんな先輩たちに悠人は怒るように叩いていた。
 だけど、僕は隣にいる朝陽先輩に目がいっていた。
 いや、きっと僕だけではないだろう。
 普段は流している前髪を上げることで、いつもより男らしく見える。
 バスケをしている時とも違って、どこか爽やかさを垂れ流しにしている。

「直はセットできる?」
「あっ……いや……」

 普段とは違う姿にドキッとしてしまった。
 それに学ランなのもあり、新鮮に感じる。

「やってあげるよ」

 そう言って、朝陽先輩は手にワックスをつけて、僕の髪の毛をワシャワシャと触った。

「わっわっ!?」

 僕よりも大きな手に髪の毛を触られて、気が抜けてそのままもたれてしまった。

「あっ……すみません」

 慌てて離れようとするが、朝陽先輩が髪の毛を触っているから、あまり身動きが取れない。

「くくく、大丈夫だよ。そのままで」

 普段は僕が朝陽先輩にご飯を食べさせているのに、僕が頼っているのが不思議だ。

「そういえば、ちゃんとご飯は食べた?」
「緊張して食べられなかったら、悠人に取られましたね」

 僕の言葉に朝陽先輩の手が止まる。
 なぜか悠人とバスケ部の先輩はビクッとしていた。

「朝陽先輩……?」

 僕がチラッと顔を上げると、普段と変わらないにこやかな朝陽先輩がいた。

「おい、悠人。お前何したんだよ?」
「いや、俺何もしてないっすよ!」

 隣で悠人と先輩がコソコソと話しているが、朝陽先輩は気にすることなく、僕の髪の毛を整える。

「よし、これでいいかな?」

 朝陽先輩から離れて、僕はスマートフォンのカメラを使って髪型を確認する。

「さすが朝陽先輩ですね。似合ってなかったら……どうしたんですか?」
「いや、急に離れたからさ」

 朝陽先輩は少し落ち込んだような顔をしていた。
 そんなに僕の髪型を整えるのが楽しかったのかな。

「僕の髪の毛ならいつでも触ってもらって構いませんよ?」
「くくく、そうさせてもらうね」

 少しだけ朝陽先輩の顔が明るくなったような気がした。