楽しそうに笑う直の姿を見て、胸の奥がざわついた。
今は悠人と肩を組んで笑っている。
別におかしなことじゃない。
同級生だし、昔からの友達なんだから、あれくらい普通なのに――。
「……なんだこれ」
胸の奥が少しだけ苦しい。
声をかけて一緒に笑いたいのに、視界に入るのも嫌になってしまう。
自分でも理由が分からないまま、気づけば俺は競技の待機場所まで歩いていた。
「王子、こんなところで何してるんだ?」
聞き慣れた声で振り返ると、そこにはバスケ部の顧問が立っていた。
体育の教科担任だから、今日は競技の誘導やっていたのか。
「借り者競争に出るのは知っているけど、まだ時間はあるぞ?」
「……あっ」
言われてようやく気づく。
「ぼーっとしてるなんて珍しいな。熱中症になっていないか?」
心配そうに聞いてくる先生に俺は笑う。
「少し考え事をしてました」
「おー、そうか。チヤホヤされるのも大変だもんな。応援団長までやってるんだから、ちゃんと休めよ」
苦笑いを返し、俺は来た道に戻る。
別にチヤホヤされたいわけではない。
俺はただ自分が思うままに学校生活を送りたいだけ。
でも、人が自然と集まってくるから息苦しい。
まるで本当の自分がいなくなったかのように……。
ふとチーム席に目を向けると、直と悠人がまだ笑いあっていた。
悠人が何かを言うたび、直が楽しそうに笑う。
その光景を見た瞬間、さっき胸に生まれた違和感がまた顔を出す。
「……」
俺は小さく息を吐くと、そのまま人目の少ない校舎裏へ足を向けた。
静かな場所に来ても答えは見つからない。
どうしてあんなに胸がざわつくんだろう。
直が笑っているなら、それでいいはずなのに。
そう自分に言い聞かせても、頭に浮かぶのは悠人と並んで笑う直の姿ばかりだ。
「あっ! 朝陽先輩!」
俺は声が聞こえた方を振り向こうと顔を上げる。
すると、頬に冷たい感触が伝わってきた。
「熱中症になってないですか? 心配で見にきました」
そこには心配そうに俺の顔を見る直がいた。
手には保冷剤を握っており、俺の額や首元に触れては自身の体を交互に触っている。
「やっぱり熱いですかね……」
「はぁー、冷たい」
冷たい感触に俺は直の手に自分の手を重ねて、頬を沿わせる。
さっきまでざわついていた胸の痛みは自然と落ち着き、冷静になってくる。
「くくく、朝陽先輩、今は食べる物持ってないですよ」
直はそう言って、逃げることなく俺の方を見て笑っていた。
俺のことを気にしてわざわざ追いかけてきてくれた。
その事実がどうしようもなく嬉しかった。
「……直」
「どうしました?」
名前を呼んだだけなのに視線が合った瞬間、胸の奥がまた熱くなる。
悠人にモヤモヤしたんじゃない。
直が楽しそうに笑う相手が、自分じゃないことが嫌だった。
もっと自分を見てほしい。
あいつが笑うなら、その隣にいるのは俺がいい。
俺が直を笑わせてあげたい。
そんな気持ちが溢れ出てくる。
どうしてそんなことを思うのだろう。
『借り者競争に出場する生徒は、競技待機場所へ集合してください』
グラウンドに放送が響く。
「行くか……」
「朝陽先輩、借り者競争に出るんですか?」
驚いた顔をする直に俺は再びドキッとする。
ああ、もっと色んな直の顔が見たいな。
「僕の予想だと100m走か長距離走に出るのかと思ってました」
隣でニコニコと話す直に、俺の機嫌も自然と良くなる。
「あんまり走るのは好きじゃないからな……」
「嘘だ!? 毎日あれだけ夜走ってるのに? 今まで買い物に付き合わせて迷惑――」
「いや、あれは俺が付き合……」
何気ない言葉だけど、言葉が詰まってしまう。
――付き合って
当たり前に使っていた言葉なのに、直に伝えようとすると息が詰まる。
「迷惑じゃないよ!」
「それならよかったです」
俺の言葉を聞いてホッとしている直がいた。
口が滑って、今の楽しい日常が変化するのは嫌だよな。
「じゃあ、朝陽先輩頑張ってくださいね!」
「応援してて!」
直はそう言って大きく手を振り、チーム席へと駆け戻っていく。
その背中を見送るだけでさっきまで胸の中を渦巻いていた焦りや苛立ちは不思議なくらい消えていた。
「……本当に単純だな」
苦笑しながら胸に手を当てる。
直が笑うだけで嬉しくて、直が誰かと楽しそうにしているだけで落ち着かなくなる。
そんな自分が少し可笑しくて、小さく息を吐いた。
『借り物競争に出場する生徒は、競技待機場所へ集合してください』
再びアナウンスが響く。
「早く行かないとな」
まだこの感情に名前は付けられない。
だけど、一つだけ分かることがある。
今、一番一緒にいたい相手は直だ。
俺は競技待機場所へ向かって歩き出した。
今は悠人と肩を組んで笑っている。
別におかしなことじゃない。
同級生だし、昔からの友達なんだから、あれくらい普通なのに――。
「……なんだこれ」
胸の奥が少しだけ苦しい。
声をかけて一緒に笑いたいのに、視界に入るのも嫌になってしまう。
自分でも理由が分からないまま、気づけば俺は競技の待機場所まで歩いていた。
「王子、こんなところで何してるんだ?」
聞き慣れた声で振り返ると、そこにはバスケ部の顧問が立っていた。
体育の教科担任だから、今日は競技の誘導やっていたのか。
「借り者競争に出るのは知っているけど、まだ時間はあるぞ?」
「……あっ」
言われてようやく気づく。
「ぼーっとしてるなんて珍しいな。熱中症になっていないか?」
心配そうに聞いてくる先生に俺は笑う。
「少し考え事をしてました」
「おー、そうか。チヤホヤされるのも大変だもんな。応援団長までやってるんだから、ちゃんと休めよ」
苦笑いを返し、俺は来た道に戻る。
別にチヤホヤされたいわけではない。
俺はただ自分が思うままに学校生活を送りたいだけ。
でも、人が自然と集まってくるから息苦しい。
まるで本当の自分がいなくなったかのように……。
ふとチーム席に目を向けると、直と悠人がまだ笑いあっていた。
悠人が何かを言うたび、直が楽しそうに笑う。
その光景を見た瞬間、さっき胸に生まれた違和感がまた顔を出す。
「……」
俺は小さく息を吐くと、そのまま人目の少ない校舎裏へ足を向けた。
静かな場所に来ても答えは見つからない。
どうしてあんなに胸がざわつくんだろう。
直が笑っているなら、それでいいはずなのに。
そう自分に言い聞かせても、頭に浮かぶのは悠人と並んで笑う直の姿ばかりだ。
「あっ! 朝陽先輩!」
俺は声が聞こえた方を振り向こうと顔を上げる。
すると、頬に冷たい感触が伝わってきた。
「熱中症になってないですか? 心配で見にきました」
そこには心配そうに俺の顔を見る直がいた。
手には保冷剤を握っており、俺の額や首元に触れては自身の体を交互に触っている。
「やっぱり熱いですかね……」
「はぁー、冷たい」
冷たい感触に俺は直の手に自分の手を重ねて、頬を沿わせる。
さっきまでざわついていた胸の痛みは自然と落ち着き、冷静になってくる。
「くくく、朝陽先輩、今は食べる物持ってないですよ」
直はそう言って、逃げることなく俺の方を見て笑っていた。
俺のことを気にしてわざわざ追いかけてきてくれた。
その事実がどうしようもなく嬉しかった。
「……直」
「どうしました?」
名前を呼んだだけなのに視線が合った瞬間、胸の奥がまた熱くなる。
悠人にモヤモヤしたんじゃない。
直が楽しそうに笑う相手が、自分じゃないことが嫌だった。
もっと自分を見てほしい。
あいつが笑うなら、その隣にいるのは俺がいい。
俺が直を笑わせてあげたい。
そんな気持ちが溢れ出てくる。
どうしてそんなことを思うのだろう。
『借り者競争に出場する生徒は、競技待機場所へ集合してください』
グラウンドに放送が響く。
「行くか……」
「朝陽先輩、借り者競争に出るんですか?」
驚いた顔をする直に俺は再びドキッとする。
ああ、もっと色んな直の顔が見たいな。
「僕の予想だと100m走か長距離走に出るのかと思ってました」
隣でニコニコと話す直に、俺の機嫌も自然と良くなる。
「あんまり走るのは好きじゃないからな……」
「嘘だ!? 毎日あれだけ夜走ってるのに? 今まで買い物に付き合わせて迷惑――」
「いや、あれは俺が付き合……」
何気ない言葉だけど、言葉が詰まってしまう。
――付き合って
当たり前に使っていた言葉なのに、直に伝えようとすると息が詰まる。
「迷惑じゃないよ!」
「それならよかったです」
俺の言葉を聞いてホッとしている直がいた。
口が滑って、今の楽しい日常が変化するのは嫌だよな。
「じゃあ、朝陽先輩頑張ってくださいね!」
「応援してて!」
直はそう言って大きく手を振り、チーム席へと駆け戻っていく。
その背中を見送るだけでさっきまで胸の中を渦巻いていた焦りや苛立ちは不思議なくらい消えていた。
「……本当に単純だな」
苦笑しながら胸に手を当てる。
直が笑うだけで嬉しくて、直が誰かと楽しそうにしているだけで落ち着かなくなる。
そんな自分が少し可笑しくて、小さく息を吐いた。
『借り物競争に出場する生徒は、競技待機場所へ集合してください』
再びアナウンスが響く。
「早く行かないとな」
まだこの感情に名前は付けられない。
だけど、一つだけ分かることがある。
今、一番一緒にいたい相手は直だ。
俺は競技待機場所へ向かって歩き出した。



