「ちゃんと荷物は持った?」
「お弁当もあるし、熱中症対策も完璧!」
僕はもう一度カバンを開けて中を確認する。
ちゃんと食べやすいようにプラスチック容器にサンドイッチは入ってるし、魔法瓶にはアイススラリーも用意している。
「まだ夏でもないのに、気温が三十度も超えて大変ね」
「天気がいいのは体育祭にとってはいいのかもしれないけど……」
暑さ対策で体育祭の日程が早まるようになったのに、外はすでに日差しが強くなっていた。
そんな中、僕は自転車を漕いで学校に向かっていく。
たくさん練習をしたダンスをついに踊る時がやってきた。
学校に到着すると、すでにクラスTシャツを着ている生徒で溢れておりお祭り騒ぎだ。
今日はどこの部活も朝練がないのだろう。
それは教室でも同じだ。
「スプレー貸して!」
「日焼け止めも塗らないと」
女子生徒は髪の毛が崩れないように結び、スプレーで固定しているし、日焼け対策も万全だ。
「今日こそ王子先輩に告白するんだ!」
「なら、汗でメイクが崩れないようにしなきゃ」
彼女も朝陽先輩を目的に応援合戦に参加する子たちだ。
イベントがある日って告白する人が多いって聞くけど、まさかこんな身近にいるとはね。
体育祭や文化祭の時はメイクしていても怒られないから、そのタイミングを狙っているのかもしれない。
だけど、今の僕はそれどころじゃない。
「女の子って大変だね……」
「ここにも大変そうなやつがいるけどな」
「そんなに確認しなくても大丈夫だろ?」
僕は教室の片隅でダンスの振り付けを必死に思い出しながら、身振り手振りをしている。
そんな様子を悠人や友達たちが笑って見ていた。
毎日練習して覚えてはいても、正直不安で仕方ない。
僕一人が問題になればいいけど、みんなに迷惑がかかるからね。
「お前ら、椅子を外に運べよー」
先生の指示に従って、各々の教室から椅子を持っていく。
外にはテントとブルーシートが各チームごとに用意されているが、そこに全員が入れるわけではないからね。
「見てみて、今日も王子先輩かっこいいよ!」
「せっかく隣のテントだから、声をかけて来なよ」
「だって、あんなに女子が群がっていたら、後輩は近寄れないよ」
隣のテントでは朝陽先輩と女子生徒たちが涼んでいた。
朝陽先輩は僕に気づくとニコリと笑った。
「ねぇ、見た! 王子先輩こっち見て笑ったよ!」
「絶対脈有りだって!」
きっと僕じゃなくて、同じ応援団の女子生徒に笑ったのだろう。
勘違いするところだった。
僕は椅子を置くと、そのまま椅子に座り休憩する。
――ピロン♪
スマートフォンから音が鳴り、確認すると朝陽先輩からのメッセージだった。
『おはよう! 今無視しただろー』
どうやらさっきのは僕に向かって微笑んでいたようだ。
勘違いじゃなくて一安心だ。
僕はその場で頭を下げると、唐揚げが踊るスタンプが届いた。
相変わらず王子様とは関係ない朝陽先輩らしいスタンプだ。
「あっ、そうだ……」
僕もスマートフォンで朝陽先輩にメッセージを送る。
『お弁当はいつ渡しますか?』
すぐに既読がついて、メッセージが戻ってきた。
『渡す……? 一緒に食べないの?』
僕がその場で首を横に振ると、朝陽先輩はしょんぼりしていた。
「王子どうしたのー?」
「なにかあった?」
それを見た女子生徒たちも心配しているようだ。
『今日は応援団長で忙しいと思ったので』
『少しぐらい時間は作れるよ?』
思わず頬が緩む。
でも、今日は朝陽先輩だけじゃなく、僕も競技や応援で慌ただしくなる。
だから一緒に食べることはできない。
『食べやすいものを作ってきので、時間がある時に渡しますね』
既読がついたまま数秒。
『一緒に食べたかったけど仕方ないね。楽しみにしておく!』
僕が作ったお弁当があればいいと思っていたけど、一緒に食べたいと思っているとは思わなかった。
生徒たちが外に集まってくると、すぐにグラウンドの中央に集められた。
開会式が始まると、グラウンドは一気に体育祭へと変わっていった。
クラスごとの応援や歓声が響き、普段の学校とは違う雰囲気に包まれている。
朝陽先輩にお弁当を渡そうと思ったけど、どのタイミングがいいんだろうか。
何の個人競技に出るか聞いていなかったからな……。
『朝陽先輩は個人競技何に出ますか?』
すぐに既読がついたと思ったら、二文字の言葉で返ってきた。
『秘密』
まさか秘密って言われるとは思わなかった。
それだとお弁当を渡すタイミングがわからない。
『今、時間ありますか?』
『ある!』
今度も二文字で返ってきたけど、どこか嬉しそうな気がした。
『10分後にいつもの場所で待ってます』
メッセージを送ると、僕は教室から保冷バッグを抱えて校舎裏へ向かう。
しばらくすると、周囲をキョロキョロしてる朝陽先輩が駆け足でやってきた。
「直、お待たせ!」
「大丈夫でした?」
「ああ、みんなを撒いてきた」
そう言って息を整えながら笑う朝陽先輩に、僕は保冷バッグを差し出した。
「はい、お弁当です」
「ありがとう!」
朝陽先輩は嬉しそうに受け取ると、中をのぞき込む。
「サンドイッチ?」
「忙しいと思ったので、片手でも食べられるようにしました」
応援合戦はお昼一番初めにあるから、朝陽先輩は準備に追われるだろう。
「さすが直だな」
その一言だけで、朝早く起きて作った疲れが吹き飛ぶ。
「あとこっちの水筒には……」
保冷バッグの奥から、飲み口が大きめの水筒を取り出す。
「お茶?」
「いえ、アイススラリーを作ってみました!」
「アイス……スラリー?」
朝陽先輩は首を傾げながら、水筒の蓋を開けた。
「シャーベット状の液体になっているので、飲む時に振ってもらえるといいですよ」
スポーツドリンクと冷凍のグレープフルーツをミキサーで砕いて、凍らしたスポーツドリンクの氷を水筒の中に入れてある。
手軽に作れるけど、熱中症対策には体の中から冷やすと良いって聞いていたからね。
「えっ……? これ本当に手作り?」
軽く振ってからひとくち飲んだ朝陽先輩は少し驚いたように目を丸くした。
「結構簡単ですよ?」
「さすが直だな! こんなの初めて飲んだ」
僕も熱中症対策で調べた時に知ったから初めて作って見たけど、うまくできてよかった。
「バスケの試合の時にも良さそうですよね。体育館も暑いですし」
朝陽先輩は大事そうにアイススラリーを持ちながら笑う。
「じゃあ、今度は県大会の時も用意してもらおうかな。もちろんお弁当も!」
「相変わらず食いしん坊ですね」
お互いにクスクスと笑う。
まさかこのタイミングで次の予約をされるとは思わなかった。
「食いしん坊なのは直の作ったご飯の時だけだよ」
「コロッケを食べてる時もですよ?」
「あー、それは直のお母さんが作るコロッケが美味すぎるせいだ」
少しだけムッとした後に笑う朝陽先輩を見て、僕も自然と笑みがこぼれた。
『二人三脚に出場する生徒は競技待機場所まで集まってください』
放送部のアナウンスが耳に入る。
「あっ……それじゃあ、僕は戻りますね」
「直は二人三脚に出るんだね」
「はい。悠人と出ることになってます」
「また悠人か……」
悠人の名前を出すと、どこか表情が暗くなった。
「何かありましたか?」
聞き返すと、朝陽先輩は一瞬だけ視線を逸らした。
「いや……なんでもない」
何か言うわけでもなく、朝陽先輩はいつものように笑う。
だけど、いつもの笑顔とは少し違う気がした。
「じゃあ、朝陽先輩も頑張ってくださいね」
「直も」
そう言った朝陽先輩は、僕の持ってきた保冷バッグに視線を向ける。
「今日もありがとね」
「僕が好きで作っているので気にしないでください」
僕の言葉に朝陽先輩は少し困ったように笑った。
「本当に直はそういうところだよな」
「え?」
「いや、なんでもないよ。呼ばれてるんだろ?」
朝陽先輩は僕の背中を軽く押した。
さすがにゆっくりしていたら、ペアの悠人にも怒られちゃうもんね。
「頑張ってきます!」
僕はそのまま急いで、二人三脚の集合場所へ向かうために走り出した。
って言っても相変わらず足は遅いんだけどね。
「お弁当もあるし、熱中症対策も完璧!」
僕はもう一度カバンを開けて中を確認する。
ちゃんと食べやすいようにプラスチック容器にサンドイッチは入ってるし、魔法瓶にはアイススラリーも用意している。
「まだ夏でもないのに、気温が三十度も超えて大変ね」
「天気がいいのは体育祭にとってはいいのかもしれないけど……」
暑さ対策で体育祭の日程が早まるようになったのに、外はすでに日差しが強くなっていた。
そんな中、僕は自転車を漕いで学校に向かっていく。
たくさん練習をしたダンスをついに踊る時がやってきた。
学校に到着すると、すでにクラスTシャツを着ている生徒で溢れておりお祭り騒ぎだ。
今日はどこの部活も朝練がないのだろう。
それは教室でも同じだ。
「スプレー貸して!」
「日焼け止めも塗らないと」
女子生徒は髪の毛が崩れないように結び、スプレーで固定しているし、日焼け対策も万全だ。
「今日こそ王子先輩に告白するんだ!」
「なら、汗でメイクが崩れないようにしなきゃ」
彼女も朝陽先輩を目的に応援合戦に参加する子たちだ。
イベントがある日って告白する人が多いって聞くけど、まさかこんな身近にいるとはね。
体育祭や文化祭の時はメイクしていても怒られないから、そのタイミングを狙っているのかもしれない。
だけど、今の僕はそれどころじゃない。
「女の子って大変だね……」
「ここにも大変そうなやつがいるけどな」
「そんなに確認しなくても大丈夫だろ?」
僕は教室の片隅でダンスの振り付けを必死に思い出しながら、身振り手振りをしている。
そんな様子を悠人や友達たちが笑って見ていた。
毎日練習して覚えてはいても、正直不安で仕方ない。
僕一人が問題になればいいけど、みんなに迷惑がかかるからね。
「お前ら、椅子を外に運べよー」
先生の指示に従って、各々の教室から椅子を持っていく。
外にはテントとブルーシートが各チームごとに用意されているが、そこに全員が入れるわけではないからね。
「見てみて、今日も王子先輩かっこいいよ!」
「せっかく隣のテントだから、声をかけて来なよ」
「だって、あんなに女子が群がっていたら、後輩は近寄れないよ」
隣のテントでは朝陽先輩と女子生徒たちが涼んでいた。
朝陽先輩は僕に気づくとニコリと笑った。
「ねぇ、見た! 王子先輩こっち見て笑ったよ!」
「絶対脈有りだって!」
きっと僕じゃなくて、同じ応援団の女子生徒に笑ったのだろう。
勘違いするところだった。
僕は椅子を置くと、そのまま椅子に座り休憩する。
――ピロン♪
スマートフォンから音が鳴り、確認すると朝陽先輩からのメッセージだった。
『おはよう! 今無視しただろー』
どうやらさっきのは僕に向かって微笑んでいたようだ。
勘違いじゃなくて一安心だ。
僕はその場で頭を下げると、唐揚げが踊るスタンプが届いた。
相変わらず王子様とは関係ない朝陽先輩らしいスタンプだ。
「あっ、そうだ……」
僕もスマートフォンで朝陽先輩にメッセージを送る。
『お弁当はいつ渡しますか?』
すぐに既読がついて、メッセージが戻ってきた。
『渡す……? 一緒に食べないの?』
僕がその場で首を横に振ると、朝陽先輩はしょんぼりしていた。
「王子どうしたのー?」
「なにかあった?」
それを見た女子生徒たちも心配しているようだ。
『今日は応援団長で忙しいと思ったので』
『少しぐらい時間は作れるよ?』
思わず頬が緩む。
でも、今日は朝陽先輩だけじゃなく、僕も競技や応援で慌ただしくなる。
だから一緒に食べることはできない。
『食べやすいものを作ってきので、時間がある時に渡しますね』
既読がついたまま数秒。
『一緒に食べたかったけど仕方ないね。楽しみにしておく!』
僕が作ったお弁当があればいいと思っていたけど、一緒に食べたいと思っているとは思わなかった。
生徒たちが外に集まってくると、すぐにグラウンドの中央に集められた。
開会式が始まると、グラウンドは一気に体育祭へと変わっていった。
クラスごとの応援や歓声が響き、普段の学校とは違う雰囲気に包まれている。
朝陽先輩にお弁当を渡そうと思ったけど、どのタイミングがいいんだろうか。
何の個人競技に出るか聞いていなかったからな……。
『朝陽先輩は個人競技何に出ますか?』
すぐに既読がついたと思ったら、二文字の言葉で返ってきた。
『秘密』
まさか秘密って言われるとは思わなかった。
それだとお弁当を渡すタイミングがわからない。
『今、時間ありますか?』
『ある!』
今度も二文字で返ってきたけど、どこか嬉しそうな気がした。
『10分後にいつもの場所で待ってます』
メッセージを送ると、僕は教室から保冷バッグを抱えて校舎裏へ向かう。
しばらくすると、周囲をキョロキョロしてる朝陽先輩が駆け足でやってきた。
「直、お待たせ!」
「大丈夫でした?」
「ああ、みんなを撒いてきた」
そう言って息を整えながら笑う朝陽先輩に、僕は保冷バッグを差し出した。
「はい、お弁当です」
「ありがとう!」
朝陽先輩は嬉しそうに受け取ると、中をのぞき込む。
「サンドイッチ?」
「忙しいと思ったので、片手でも食べられるようにしました」
応援合戦はお昼一番初めにあるから、朝陽先輩は準備に追われるだろう。
「さすが直だな」
その一言だけで、朝早く起きて作った疲れが吹き飛ぶ。
「あとこっちの水筒には……」
保冷バッグの奥から、飲み口が大きめの水筒を取り出す。
「お茶?」
「いえ、アイススラリーを作ってみました!」
「アイス……スラリー?」
朝陽先輩は首を傾げながら、水筒の蓋を開けた。
「シャーベット状の液体になっているので、飲む時に振ってもらえるといいですよ」
スポーツドリンクと冷凍のグレープフルーツをミキサーで砕いて、凍らしたスポーツドリンクの氷を水筒の中に入れてある。
手軽に作れるけど、熱中症対策には体の中から冷やすと良いって聞いていたからね。
「えっ……? これ本当に手作り?」
軽く振ってからひとくち飲んだ朝陽先輩は少し驚いたように目を丸くした。
「結構簡単ですよ?」
「さすが直だな! こんなの初めて飲んだ」
僕も熱中症対策で調べた時に知ったから初めて作って見たけど、うまくできてよかった。
「バスケの試合の時にも良さそうですよね。体育館も暑いですし」
朝陽先輩は大事そうにアイススラリーを持ちながら笑う。
「じゃあ、今度は県大会の時も用意してもらおうかな。もちろんお弁当も!」
「相変わらず食いしん坊ですね」
お互いにクスクスと笑う。
まさかこのタイミングで次の予約をされるとは思わなかった。
「食いしん坊なのは直の作ったご飯の時だけだよ」
「コロッケを食べてる時もですよ?」
「あー、それは直のお母さんが作るコロッケが美味すぎるせいだ」
少しだけムッとした後に笑う朝陽先輩を見て、僕も自然と笑みがこぼれた。
『二人三脚に出場する生徒は競技待機場所まで集まってください』
放送部のアナウンスが耳に入る。
「あっ……それじゃあ、僕は戻りますね」
「直は二人三脚に出るんだね」
「はい。悠人と出ることになってます」
「また悠人か……」
悠人の名前を出すと、どこか表情が暗くなった。
「何かありましたか?」
聞き返すと、朝陽先輩は一瞬だけ視線を逸らした。
「いや……なんでもない」
何か言うわけでもなく、朝陽先輩はいつものように笑う。
だけど、いつもの笑顔とは少し違う気がした。
「じゃあ、朝陽先輩も頑張ってくださいね」
「直も」
そう言った朝陽先輩は、僕の持ってきた保冷バッグに視線を向ける。
「今日もありがとね」
「僕が好きで作っているので気にしないでください」
僕の言葉に朝陽先輩は少し困ったように笑った。
「本当に直はそういうところだよな」
「え?」
「いや、なんでもないよ。呼ばれてるんだろ?」
朝陽先輩は僕の背中を軽く押した。
さすがにゆっくりしていたら、ペアの悠人にも怒られちゃうもんね。
「頑張ってきます!」
僕はそのまま急いで、二人三脚の集合場所へ向かうために走り出した。
って言っても相変わらず足は遅いんだけどね。



