「今日はこの辺にしておこうか」
「はい……思ったより疲れました」
ワックだけでも何度も腕を振り回したせいで、じんわりと汗をかいている。
夜風に吹かれて、汗ばんだ僕の体は少しだけ冷えていく。
「直、こっち!」
朝陽先輩はベンチに座ると、隣をトントンと叩いて僕に座るように言ってきた。
汗をかいている僕と反対に、朝陽先輩は涼しい顔をしていた。
「動いたらお腹減ったね」
「唐揚げ食べますか?」
朝陽先輩は待ってましたと言わんばかりにニコニコとしている。
やっぱり朝陽先輩は食べることしか考えてないのだろう。
母さんから預かった容器を開けると、唐揚げの香ばしい匂いが広がる。
朝陽先輩に渡すと、彼の視線は唐揚げに向いていた。
「ほら、直も食べ……遠くない!?」
「汗かいてるし少し離れた方が――」
そう言いかけた僕の隣に朝陽先輩は何事もなかったように詰めてくる。
「さっきの方が密着してただろ?」
「それは……そうですけど」
ダンスを教えてもらっているときは、それどころじゃなかっただけだ。
今になって思い返すと、少しだけ恥ずかしくなる。
「ほら、教えたご褒美は必要だろ?」
朝陽先輩はそう言って、悪戯っぽく口を開けた。
「またですか」
容器には竹串も一本ずつ入っている。
自分で食べればいいのに、手を膝の上に置いて待っていた。
唐揚げに竹串を刺して、朝陽先輩の口へ運ぶ。
ぱくり、と一口で頬張った朝陽先輩は幸せそうに頬を緩めた。
「うまいな」
「動いたばかりでよく食べられますね」
「むしろお腹が空いてたくさん食べられるよ?」
「便利なお腹ですね」
思わず笑ってしまう。
僕は動いたことでそこまで食欲もわかないからね。
「直が作る弁当に入ってる唐揚げと同じ味だね」
「母さんに教えてもらった秘伝のレシピだからね。うちの人気商品です」
「なるほど」
いつもコロッケばかり食べている朝陽先輩に唐揚げも宣伝してみる。
朝陽先輩は感心したように頷きながら、もう一度口を開ける。
「はいはい」
二個目も口に入れると、また嬉しそうに頬張った。
「……俺も料理できるようになりたいな」
「朝陽先輩がですか?」
「一人暮らししたら困らないし、それに直みたいに誰かに作ってあげられるだろ?」
食べることばかり考えている朝陽先輩の意外な言葉に驚いた。
バスケばかりしているイメージだったし、料理に興味があるなんて思わなかった。
「俺の母さんが夜勤専属の看護師って話をしたよね? 自分で作れたら負担が減るだろうし、母さんも喜ぶだろうなって」
そういえば、朝陽先輩はいつも一人でご飯を食べているって言ってたな。
僕と買い物をするために外に出やすいのも、一人の時間が長いからだろう。
「それなら僕が教えましょうか?」
「え?」
「ダンスを教えてもらってるお礼です」
そう言うと、朝陽先輩は少し考えてから笑った。
「じゃあ、体育祭が終わったらうちへ来る?」
「朝陽先輩の家ですか?」
「うん。俺の家の方が道具とかも同じだから、一人になった時も作りやすいかなって」
「作り方教えても、ちゃんと調理機材が使えるかわからないですしね」
「流石に電子レンジは使えるよ?」
朝陽先輩の言葉に僕は思わず笑ってしまう。
まさか電子レンジしか使わないと思っているのかな?
僕はスマートフォンを取り出して、予定を確認する。
「どの辺りがいいですかね? 試合も始まりますよね?」
「あー、体育祭が終わった二週間後には県大会の予選が始まるから、その間はどうかな?」
朝陽先輩は僕のスマートフォンを覗き込む。
夜風が吹いて、ふわりとシャンプーの甘い匂いが漂う。
「あれ? 朝陽先輩ってお風呂に入ってから来ました」
「あっ、バレた!?」
朝陽先輩はすぐに立ち上がった。
そして、少し恥ずかしそうに視線を逸らして、頭を掻いていた。
「部活で汗をかいたから、臭いと思われたら嫌だなって」
「朝陽先輩はいつも石鹸のような爽やかな匂いがしますよ」
「そっ……そうか……」
街灯に照らされる朝陽先輩の顔はどこか赤く染まっているような気がした。
朝陽先輩も照れることがあるんだね。
そう思っていると、朝陽先輩は静かに再び僕の隣に座った。
でも、何か話すわけでもなく、静かに正面を見ていた。
なんか……僕まで緊張してくる。
「あっ、朝陽先輩!」
「そろそろ!」
僕と朝陽先輩の声が重なった。
そして、お互いに視線を合わせてクスリと笑う。
「そろそろ買い物に行こうか」
「そうですね」
もう少しだけ公園のベンチに座っていたかったけど、夕飯の買い物をしないと母さんが帰ってきてしまう。
「今日は何を作る予定?」
「んー、簡単に親子丼ですかね」
「直の作る親子丼は美味しそうだな」
さっき唐揚げと小さなおにぎりを食べたばかりなのに、隣からは唾を飲む音が聞こえた。
「今度教えるのは親子丼にします?」
「いいな。楽しみにしてる」
「じゃあ、決まりですね」
僕と朝陽先輩は並んでスーパーへ向かう。
さっきまで感じていたダンスへの不安はもうどこにもなかった。
気付けば僕は、朝陽先輩へどんな料理を教えようかとそればかり考えていた。
「はい……思ったより疲れました」
ワックだけでも何度も腕を振り回したせいで、じんわりと汗をかいている。
夜風に吹かれて、汗ばんだ僕の体は少しだけ冷えていく。
「直、こっち!」
朝陽先輩はベンチに座ると、隣をトントンと叩いて僕に座るように言ってきた。
汗をかいている僕と反対に、朝陽先輩は涼しい顔をしていた。
「動いたらお腹減ったね」
「唐揚げ食べますか?」
朝陽先輩は待ってましたと言わんばかりにニコニコとしている。
やっぱり朝陽先輩は食べることしか考えてないのだろう。
母さんから預かった容器を開けると、唐揚げの香ばしい匂いが広がる。
朝陽先輩に渡すと、彼の視線は唐揚げに向いていた。
「ほら、直も食べ……遠くない!?」
「汗かいてるし少し離れた方が――」
そう言いかけた僕の隣に朝陽先輩は何事もなかったように詰めてくる。
「さっきの方が密着してただろ?」
「それは……そうですけど」
ダンスを教えてもらっているときは、それどころじゃなかっただけだ。
今になって思い返すと、少しだけ恥ずかしくなる。
「ほら、教えたご褒美は必要だろ?」
朝陽先輩はそう言って、悪戯っぽく口を開けた。
「またですか」
容器には竹串も一本ずつ入っている。
自分で食べればいいのに、手を膝の上に置いて待っていた。
唐揚げに竹串を刺して、朝陽先輩の口へ運ぶ。
ぱくり、と一口で頬張った朝陽先輩は幸せそうに頬を緩めた。
「うまいな」
「動いたばかりでよく食べられますね」
「むしろお腹が空いてたくさん食べられるよ?」
「便利なお腹ですね」
思わず笑ってしまう。
僕は動いたことでそこまで食欲もわかないからね。
「直が作る弁当に入ってる唐揚げと同じ味だね」
「母さんに教えてもらった秘伝のレシピだからね。うちの人気商品です」
「なるほど」
いつもコロッケばかり食べている朝陽先輩に唐揚げも宣伝してみる。
朝陽先輩は感心したように頷きながら、もう一度口を開ける。
「はいはい」
二個目も口に入れると、また嬉しそうに頬張った。
「……俺も料理できるようになりたいな」
「朝陽先輩がですか?」
「一人暮らししたら困らないし、それに直みたいに誰かに作ってあげられるだろ?」
食べることばかり考えている朝陽先輩の意外な言葉に驚いた。
バスケばかりしているイメージだったし、料理に興味があるなんて思わなかった。
「俺の母さんが夜勤専属の看護師って話をしたよね? 自分で作れたら負担が減るだろうし、母さんも喜ぶだろうなって」
そういえば、朝陽先輩はいつも一人でご飯を食べているって言ってたな。
僕と買い物をするために外に出やすいのも、一人の時間が長いからだろう。
「それなら僕が教えましょうか?」
「え?」
「ダンスを教えてもらってるお礼です」
そう言うと、朝陽先輩は少し考えてから笑った。
「じゃあ、体育祭が終わったらうちへ来る?」
「朝陽先輩の家ですか?」
「うん。俺の家の方が道具とかも同じだから、一人になった時も作りやすいかなって」
「作り方教えても、ちゃんと調理機材が使えるかわからないですしね」
「流石に電子レンジは使えるよ?」
朝陽先輩の言葉に僕は思わず笑ってしまう。
まさか電子レンジしか使わないと思っているのかな?
僕はスマートフォンを取り出して、予定を確認する。
「どの辺りがいいですかね? 試合も始まりますよね?」
「あー、体育祭が終わった二週間後には県大会の予選が始まるから、その間はどうかな?」
朝陽先輩は僕のスマートフォンを覗き込む。
夜風が吹いて、ふわりとシャンプーの甘い匂いが漂う。
「あれ? 朝陽先輩ってお風呂に入ってから来ました」
「あっ、バレた!?」
朝陽先輩はすぐに立ち上がった。
そして、少し恥ずかしそうに視線を逸らして、頭を掻いていた。
「部活で汗をかいたから、臭いと思われたら嫌だなって」
「朝陽先輩はいつも石鹸のような爽やかな匂いがしますよ」
「そっ……そうか……」
街灯に照らされる朝陽先輩の顔はどこか赤く染まっているような気がした。
朝陽先輩も照れることがあるんだね。
そう思っていると、朝陽先輩は静かに再び僕の隣に座った。
でも、何か話すわけでもなく、静かに正面を見ていた。
なんか……僕まで緊張してくる。
「あっ、朝陽先輩!」
「そろそろ!」
僕と朝陽先輩の声が重なった。
そして、お互いに視線を合わせてクスリと笑う。
「そろそろ買い物に行こうか」
「そうですね」
もう少しだけ公園のベンチに座っていたかったけど、夕飯の買い物をしないと母さんが帰ってきてしまう。
「今日は何を作る予定?」
「んー、簡単に親子丼ですかね」
「直の作る親子丼は美味しそうだな」
さっき唐揚げと小さなおにぎりを食べたばかりなのに、隣からは唾を飲む音が聞こえた。
「今度教えるのは親子丼にします?」
「いいな。楽しみにしてる」
「じゃあ、決まりですね」
僕と朝陽先輩は並んでスーパーへ向かう。
さっきまで感じていたダンスへの不安はもうどこにもなかった。
気付けば僕は、朝陽先輩へどんな料理を教えようかとそればかり考えていた。



