王子様と呼ばれる先輩を餌付けしたら、毎日会いに来るようになりました。

 試合終了後の会場は熱気に包まれていた。

「王子様ー!」
「最後のスリーポイント、本当にかっこよかったです!」
「写真、一枚だけお願いします!」

 コートから戻ってきた朝陽先輩は、あっという間に女子生徒たちの輪の中心にいた。

「いや……このあとミーティングなので」

 笑顔で話しかけられ、そのたびに困ったように笑って返事をしている。

「やっぱり人気者だな……」

 その姿を僕は少し離れた場所から眺める。
 試合中の真剣な表情とは違い、今はいつもの優しい笑顔だ。
 だけど、あの輪の中へ入っていく勇気は僕にはない。
 〝お疲れ様です〟とたった一言。
 それだけ伝えたいのに、女子生徒たちに囲まれている朝陽先輩を見ると、どうしても足が止まってしまう。

「帰ろうかな」

 せっかく試合に勝ったんだ。
 応援に来てくれたみんなと話す時間を邪魔しちゃ悪いよね。
 僕は会場の出口へ向かう。

「あれ? 直?」

 聞き慣れた声が聞こえ、振り返る。
 そこにはタオルを肩に掛け、スポーツドリンクを飲みながら歩いてくる悠人の姿があった。

「悠人、お疲れ様」
「見にくるなら早く言ってくれよ!」

 悠人と話すことはあっても、ここ最近バスケ部の人たちとよくいたからな。
 今回試合に出ていたのを知ったのも、ウォーミングアップが始まってからだ。

「県大会出場おめでとう」
「ありがとう!」

 悠人は嬉しそうに僕と肩を組んできた。
 試合に勝った嬉しさに普段よりもテンションが高い。

「でも今日はほとんど王子先輩が持っていったけどな」

 苦笑いを浮かべる悠人に、僕も思わず笑ってしまう。
 確かに強豪校相手だったからか、朝陽先輩は気合が入っていた。
 かなりの得点を入れていたからな。

「でも悠人も活躍してたじゃん。ボールにも飛び込んでたし、シュートも決めてたし」
「見てくれてたのか」
「もちろん」

 そう答えると、悠人は少し照れくさそうに頭をかいた。

「最後はさすが王子先輩だったけどな。あのスリーが入った瞬間、勝ったって確信したな」

 点数差もあと少し時間があったらひっくり返ってた可能性もあるからね。

「本当にすごかったね」

 今思い返しても鳥肌が立つ。
 シュートを放つ瞬間の静けさ。
 ボールがリングを通り抜ける音。
 そして会場中に響いた歓声で今も耳がおかしいからね。
 いつもお弁当を美味しそうに食べている朝陽先輩と、試合でみんなを引っ張る朝陽先輩。
 同じ人なのにまるで別人みたいだった。
 今でもどこか興奮して、熱が冷めきらない。

「今日の王子先輩、いつも以上に調子良かったんだよな」
「そうなの?」
「ああ。ほぼ100%シュートが入る日は珍しいからね」
「そっか……」

 僕は少しだけ嬉しくなった。
 もしかしたら、本当にお弁当が少しだけ力になったかもしれない。

「悠人、何やってるんだ」

 そんなことを考えていると、落ち着いた声が後ろから聞こえた。
 振り返ると、汗を拭き終えた朝陽先輩がこちらへ歩いてくる。

「王子先輩、お疲れ様です!」

 悠人が頭を下げる。

「お疲れ様です!」

 僕も慌てて頭を下げた。

「直、応援ありがとう」
「い、いえ! すごくかっこよかったですよ!」

 そう言うと、朝陽先輩は嬉しそうに目を細めた。

「あれ? 直と王子先輩って知り合いだったのか?」
「あー、王子先輩(・・・・)とは――」
「王子先輩か……」

 だけど、その笑顔も一瞬だった。
 朝陽先輩は小さく呟き、さっきまで浮かべていた笑顔を少しだけ曇らせた。

「直、どうした?」
「いや……」

 さすがにコロッケを毎日食べにきて仲良くなったと後輩には聞かれたくないよね。
 僕がどうしようか困っていると、朝陽先輩は悠人の腕を掴んだ。

「ほら、帰るぞ」
「ちょ、王子先輩! 結局、直とは――」
「みんなが待ってる」
「……えっ!? 今日はこのまま解散じゃなかったんですか!?」

 戸惑う悠人を気にすることなく、そのまま歩き出す朝陽先輩。

「じゃあな、直!」
「う……うん。また学校で!」

 手を振る悠人を見送る。
 二人はそのままバスケ部がいる廊下へ向かった。
 きっとこの後も反省会やミーティングがあるのだろう。

「僕も帰ろうかな」

 試合も終わり、特に何も予定がない僕はそのまま家に帰ることにした。