王子様と呼ばれる先輩を餌付けしたら、毎日会いに来るようになりました。

 いつものように校舎裏のベンチでお弁当を広げてお昼ご飯を食べていく。

「朝陽先輩、野菜の肉巻きはどうです?」
「俺でも食べられるぐらい美味しかったよ!」

 おにぎりを片手に美味しそうに野菜の肉巻きを食べていた朝陽先輩。
 きっと生野菜が苦手なだけで、野菜自体は食べられるのだろう。
 切り干し大根も普通に食べていたしね。
 もちろん僕が箸で取って、口に入れているからってのもあるだろう。

「あれなら毎日でもいけるかな」
「さすがに毎日は……。でも、野菜は克服できそうですね」
「肉が巻いてあれば!」

 やっぱり朝陽先輩にとって肉は大事なんだね。
 僕が次に作る献立を考えていると、朝陽先輩が僕の肩をツンツンと突いてきた。

「直って土曜日は毎回お店で働いてる?」
「土曜日ですか?」

 僕はスマートフォンを開いて、カレンダーを確認する。

「どこの土曜日ですか?」
「えーっと……」

 朝陽先輩は僕の隣へ移動すると、スマートフォンを覗き込んだ。

「この日だけど……直?」

 あまりの近さに僕は驚いて、その場の時間が止まったような気がした。
 なぜか朝陽先輩が近づくと、ドキドキしちゃうんだよね。
 さすが王子様って呼ばれているだけのことはある。

「あっ、どこですか?」

 僕は急いでカレンダーを見ると、特に予定が入っていない日だった。

「今のところは特に何もないですよ」
「じゃあさ……」

 朝陽先輩は少しだけ照れくさそうに笑った。

「試合、見に来てくれない?」
「試合ですか?」
「うん。地区大会」

 どうやらバスケ部の試合があるらしい。
 そういえば、悠人もレギュラーに選ばれて勝ち進んでいるって言ってたな。

「この日勝てたら県大会に進めるんだよ。だから――」
「だから……?」
「直のお弁当を食べたら勝てる気がするんだ。お願いします」

 朝陽先輩は手を合わせてお願いしてきた。
 まさかの言葉に僕はポカーンとする。
 そんなので勝てたら誰も苦労しないだろう。

「そんなことあります?」
「ある!」

 だけど、朝陽先輩はすぐに答えた。
 単に朝陽先輩がたくさん食べたいだけのような気もするんだけど……。

「だから、応援に来てほしい」

 そこまで言われると僕も断る理由なんてない。
 それに僕のお弁当を食べたら勝てるかもしれないと願掛けのように思ってもらえるのは嬉しいからね。

「わかりました。応援しにいきますね」
「約束!」

 朝陽先輩は嬉しそうに笑った。

 ♢ ♢ ♢

 気づいたら試合の日である土曜日になっていた。
 いつもより少しだけ早く台所へ立つ。
 今日は試合だから、お弁当はいつもより気合いを入れようと思っている。
 今までは野菜を使ったお弁当を作り、朝陽先輩が食べられそうなものを探した。
 だけど、結局は唐揚げと甘めの卵焼きが好きだった。
 そんな朝陽先輩の好きなおかずばかりを作っていく。

「あれ? 今日は土曜日なのにお弁当の準備しているのね」

 起きてきた母さんが台所にいる僕を不思議そうに見ていた。

「朝陽先輩が今日試合だから、元気が出るように僕のお弁当が食べたいんだって」
「それならとびっきり美味しいものを作らないとね」

 僕の言葉に母さんは目を細めて笑った。
 作った唐揚げや卵焼きを味見してもらい、母さんと朝陽先輩のお弁当を詰める。
 
「今日はお弁当箱小さいのね」

 母さんが後ろから覗き込む。

「試合だから部活のみんなと食べると思って」
「それもそうね」

 今日は僕が食べるわけでもないから、いつもの大きなお弁当箱は使わない。
 むしろあんなに大きなお弁当を渡されたら、試合中も動きにくいだろう。

「よし、完成」

 お弁当を包み、カバンに入れて会場へ向かった。


 会場へ着くと、応援席にはたくさんの生徒たちが集まっていた。
 朝陽先輩の名前が書かれたうちわまで見える。
 僕が通う高校以外の制服を着た生徒もうちわを持っているから、他校からもモテるのは本当のようだ。
 まるでバスケの試合というよりは、アイドルのコンサートに来たような印象を受ける。
 だが、朝陽先輩の姿はまだない。

『着きました』

 僕はスマートフォンで朝陽先輩に連絡を送る。

――ピロン♪

 すぐに朝陽先輩からの返事が届いた。

『入口に行く!』

 数分後、ジャージ姿の朝陽先輩が走ってきた。

「直、来てくれたんだね!」
「お弁当を食べたいって言ってましたからね」

 僕がお弁当を渡すと、朝陽先輩は嬉しそうに受け取る。

「あれ?」

 だが、すぐに表情は曇り、どこか不満そうな顔をしていた。
 王子様って呼ばれてるけど、朝陽先輩って思ったよりも表情がわかりやすいからね。

「どうしました?」
「今日は一緒に食べないの?」
「……えっ?」
「いつもみたいに一緒に食べると思って、楽しみにしていたんだけどな」

 少しだけ残念そうな声だった。
 まさか一緒に食べないと思って、小さいお弁当箱に詰めてきたのに。

「部員のみなさんもいますし……」
「みんなならまだ来てないよ?」
「へっ?」

 どうやら話を聞くと、朝陽先輩の試合は午後からで午前中は偵察に来ていたらしい。
 でも、他の部員がいなくても、朝陽先輩のファンがいる前で一緒にお弁当を食べていたら怒られそうだしね。
 それに朝陽先輩の秘密をバラすわけにもいかない。
 朝陽先輩は少し黙ってから笑った。

「でも直が来てくれて嬉しいよ。これで試合も頑張れそう」
「頑張ってくださいね」
「うん」

 そう言うと、朝陽先輩は会場へ戻っていった。
 一度家に帰るのもめんどくさいと思い、僕も他の学校の試合を見ることにした。
 ただ、遠くから視線を感じ、目を向けると朝陽先輩が小さく手を振っていた。
 偵察に来ていたのに、こっちばかり見ていて大丈夫なんだろうか。
 僕は苦笑しながら小さく手を振り返した。
 ひょっとしたら、僕が気になって朝陽先輩を見ているのが、原因なのかもしれないね。