「ごちそうさまでした!」
朝陽先輩は満足そうに手を合わせた。
止まらぬ動きに僕も驚いたぐらいだ。
僕がおかずを口の中に入れると、途中でおにぎりを食べて、朝陽先輩はずっと口をモグモグとさせていた。
悠人と食べている時も思ったけど、運動部は本当によく食べるね。
あの引き締まった体のどこにそんなに入るのだろうか。
「今日も美味しかった」
「口に合ってよかったです」
空になったお弁当箱を見ていると、ちゃんと全部食べてもらえたことが嬉しくなる。
「でも毎日作るのって大変じゃない?」
朝陽先輩が少し心配そうに聞いてきた。
「そんなことないですよ。お店が終わったあとに材料だけスーパーで買って帰ってるので」
「毎日?」
「はい。バイトが終わった後に寄ってますね」
そう答えると、朝陽先輩は少し考えるように顎へ手を添えた。
「それって一人で買い物してるの?」
「そうですけど……」
「なら、俺も行っていい?」
「えっ?」
思わず聞き返してしまう。
だって、バイトが終わった後って夜遅いし、家に帰った朝陽先輩はもう一度外に出てくることになる。
お店で待ってもらうのも申し訳ないし……。
「直が毎日献立を考えるなら、俺も手伝った方がいいでしょ!」
あまりにも自然に言われて、僕は首を傾げる。
「朝陽先輩も料理するんですか?」
「いや、全然」
「じゃあ、何をするんです?」
「カゴ持ち!」
胸を張って言われ、思わず吹き出した。
確かに腕は僕よりも太いから力はありそうだけど。
「そのためだけに?」
「んー、あとは食べたいものを言う係……とか?」
「食いしん坊ですね」
「否定できないな」
二人で顔を見合わせて笑う。
「それに俺が食べるもんだから、お金払わないといけないしな」
お金のことも朝陽先輩は気にしているのだろう。
確かに作るのはそこまで変わらないけど、ずっと作り続けていたら、お金はかかっちゃうもんね。
「でも本当に邪魔だったら……」
少しだけ遠慮がちに聞く朝陽先輩。
どこか置いていかないでと大型犬のような眼差しで見つめてくる姿に僕も頷くしかない。
「献立を一人で考えるよりも一緒に考えてもらった方が楽ですもんね」
「やった!」
朝陽先輩は嬉しそうに拳を握る。
相変わらず喜んでいるのが伝わってくる。
「じゃあ、お店が終わる時間に迎えに行くね」
「はい。よろしくお願いします」
「あっ……コロッケも食べに寄るからね!」
「くくく、二回もお店にくるんですね」
一日二回もお店に来ていたら、その辺の常連さんよりも来ていることになる。
バイト終わりに朝陽先輩と一緒にスーパーへ買い物へ行くことになった。
放課後、いつものように制服の上からエプロンを身につけお店へ立つ。
「終わったら朝陽先輩と買い物か」
そう呟きながらお惣菜を並べていると、聞き慣れた声がお店に響いた。
「直、コロッケ一つお願いします!」
「はい、少々お待ちください」
揚げたてのコロッケを包み、朝陽先輩の前へ差し出す。
いつものように一口食べさせると、朝陽先輩は満足そうに頬を緩めた。
「うん、やっぱり一番美味しい」
「ありがとうございます」
二人で笑っていると、奥から母さんが顔を覗かせた。
「あら、いつもコロッケを買ってくれる子ね」
「あっ、こんにちは!」
朝陽先輩はピシッと背筋を伸ばし、慌てて頭を下げる。
「初めまして! 王子朝陽です!」
さっきまで僕にふざけていた人とは思えないくらい礼儀正しい。
バスケ部が強豪校なのもあって、顧問の先生は礼儀にも厳しいからね。
「直くんにお弁当を作っていただいて、ありがとうございます!」
「朝陽先輩、それだと母さんが僕のお弁当を作ってるみたいですよ」
「あっ、えっ? 俺、間違えて言ってた?」
朝陽先輩は照れ笑いを浮かべながら頭をかいた。
母さんはそんな様子を見て、くすくすと笑っている。
それに直くんって呼ばれ慣れていないから、どこか僕も恥ずかしい。
「今日は仕事終わりに一緒に買い物へ行く約束をしてまして」
「へぇ」
母さんは朝陽先輩をジーッと見つめる。
「少しだけ息子さんをお借りします!」
「クスッ!」
まるで結婚の挨拶みたいな言い方に、母さんは思わず吹き出した。
直くんと呼ばれた時よりも恥ずかしいよ。
「直は方向音痴じゃないけど、料理のことを考え始めると周りが見えなくなるからよろしくね」
「はい! お守りします!」
朝陽先輩は真剣な顔で頷く。
これじゃあ、まるで犬のおまわりさんみたいだ。
ってことは僕は迷子の子猫ちゃん……?
二人だけで話が進んでいき、僕だけ置いていかれている気分だ。
「朝陽くん……だったかな?」
「はい!」
「朝陽くんも親御さんにちゃんと夜に出かけることは伝えないとダメだよ」
「はい! 母が夜勤なのでちゃんと連絡しておきます」
そう言って、朝陽先輩はその場でスマートフォンを取り出して、どこかに連絡をしていた。
「22時までには帰ってきなさいよ。直にも大変な思いさせてごめんね」
母さんはどこか申し訳なさそうに調理場に戻って行った。
明日の仕込みもあるから、母さんも大変なんだろう。
「じゃあ、またあとで来るね!」
朝陽先輩は母さんに頭を下げた後に、僕に手を振って帰って行った。
本当にコロッケを食べて、また寄ってくるのだろう。
忙しい時間帯も終わり、お店を閉める頃には商店街には誰も歩いていない。
エプロンを外し、スマートフォンを取り出す。
『終わりました』
そう送ると、すぐに既読がつく。
『今、お店の前!』
「早っ」
あまりのメッセージの早さに思わず笑ってしまった。
まるで連絡が来るのを待って、スマートフォンを握りしめていたみたいだ。
「ほら朝陽くんが迎えに来てくれたみたいよ」
母さんがいる調理場からは、朝陽先輩が見えるのだろう。
「じゃあ、行ってくるね!」
僕が外へ出ようとすると、母さんが小さく笑った。
「直も楽しい先輩と仲良くなったわね」
「朝陽先輩のこと?」
「ええ。最近、本当に楽しそうよ」
そう言われても、いまいち実感は湧かない。
ただ、一緒にご飯を食べたり、料理の話をしたり、お店の中で少しだけ時間を過ごしたり。
一日のわずかな時間だけど、不思議と毎日が賑やかになっていた。
朝陽先輩は満足そうに手を合わせた。
止まらぬ動きに僕も驚いたぐらいだ。
僕がおかずを口の中に入れると、途中でおにぎりを食べて、朝陽先輩はずっと口をモグモグとさせていた。
悠人と食べている時も思ったけど、運動部は本当によく食べるね。
あの引き締まった体のどこにそんなに入るのだろうか。
「今日も美味しかった」
「口に合ってよかったです」
空になったお弁当箱を見ていると、ちゃんと全部食べてもらえたことが嬉しくなる。
「でも毎日作るのって大変じゃない?」
朝陽先輩が少し心配そうに聞いてきた。
「そんなことないですよ。お店が終わったあとに材料だけスーパーで買って帰ってるので」
「毎日?」
「はい。バイトが終わった後に寄ってますね」
そう答えると、朝陽先輩は少し考えるように顎へ手を添えた。
「それって一人で買い物してるの?」
「そうですけど……」
「なら、俺も行っていい?」
「えっ?」
思わず聞き返してしまう。
だって、バイトが終わった後って夜遅いし、家に帰った朝陽先輩はもう一度外に出てくることになる。
お店で待ってもらうのも申し訳ないし……。
「直が毎日献立を考えるなら、俺も手伝った方がいいでしょ!」
あまりにも自然に言われて、僕は首を傾げる。
「朝陽先輩も料理するんですか?」
「いや、全然」
「じゃあ、何をするんです?」
「カゴ持ち!」
胸を張って言われ、思わず吹き出した。
確かに腕は僕よりも太いから力はありそうだけど。
「そのためだけに?」
「んー、あとは食べたいものを言う係……とか?」
「食いしん坊ですね」
「否定できないな」
二人で顔を見合わせて笑う。
「それに俺が食べるもんだから、お金払わないといけないしな」
お金のことも朝陽先輩は気にしているのだろう。
確かに作るのはそこまで変わらないけど、ずっと作り続けていたら、お金はかかっちゃうもんね。
「でも本当に邪魔だったら……」
少しだけ遠慮がちに聞く朝陽先輩。
どこか置いていかないでと大型犬のような眼差しで見つめてくる姿に僕も頷くしかない。
「献立を一人で考えるよりも一緒に考えてもらった方が楽ですもんね」
「やった!」
朝陽先輩は嬉しそうに拳を握る。
相変わらず喜んでいるのが伝わってくる。
「じゃあ、お店が終わる時間に迎えに行くね」
「はい。よろしくお願いします」
「あっ……コロッケも食べに寄るからね!」
「くくく、二回もお店にくるんですね」
一日二回もお店に来ていたら、その辺の常連さんよりも来ていることになる。
バイト終わりに朝陽先輩と一緒にスーパーへ買い物へ行くことになった。
放課後、いつものように制服の上からエプロンを身につけお店へ立つ。
「終わったら朝陽先輩と買い物か」
そう呟きながらお惣菜を並べていると、聞き慣れた声がお店に響いた。
「直、コロッケ一つお願いします!」
「はい、少々お待ちください」
揚げたてのコロッケを包み、朝陽先輩の前へ差し出す。
いつものように一口食べさせると、朝陽先輩は満足そうに頬を緩めた。
「うん、やっぱり一番美味しい」
「ありがとうございます」
二人で笑っていると、奥から母さんが顔を覗かせた。
「あら、いつもコロッケを買ってくれる子ね」
「あっ、こんにちは!」
朝陽先輩はピシッと背筋を伸ばし、慌てて頭を下げる。
「初めまして! 王子朝陽です!」
さっきまで僕にふざけていた人とは思えないくらい礼儀正しい。
バスケ部が強豪校なのもあって、顧問の先生は礼儀にも厳しいからね。
「直くんにお弁当を作っていただいて、ありがとうございます!」
「朝陽先輩、それだと母さんが僕のお弁当を作ってるみたいですよ」
「あっ、えっ? 俺、間違えて言ってた?」
朝陽先輩は照れ笑いを浮かべながら頭をかいた。
母さんはそんな様子を見て、くすくすと笑っている。
それに直くんって呼ばれ慣れていないから、どこか僕も恥ずかしい。
「今日は仕事終わりに一緒に買い物へ行く約束をしてまして」
「へぇ」
母さんは朝陽先輩をジーッと見つめる。
「少しだけ息子さんをお借りします!」
「クスッ!」
まるで結婚の挨拶みたいな言い方に、母さんは思わず吹き出した。
直くんと呼ばれた時よりも恥ずかしいよ。
「直は方向音痴じゃないけど、料理のことを考え始めると周りが見えなくなるからよろしくね」
「はい! お守りします!」
朝陽先輩は真剣な顔で頷く。
これじゃあ、まるで犬のおまわりさんみたいだ。
ってことは僕は迷子の子猫ちゃん……?
二人だけで話が進んでいき、僕だけ置いていかれている気分だ。
「朝陽くん……だったかな?」
「はい!」
「朝陽くんも親御さんにちゃんと夜に出かけることは伝えないとダメだよ」
「はい! 母が夜勤なのでちゃんと連絡しておきます」
そう言って、朝陽先輩はその場でスマートフォンを取り出して、どこかに連絡をしていた。
「22時までには帰ってきなさいよ。直にも大変な思いさせてごめんね」
母さんはどこか申し訳なさそうに調理場に戻って行った。
明日の仕込みもあるから、母さんも大変なんだろう。
「じゃあ、またあとで来るね!」
朝陽先輩は母さんに頭を下げた後に、僕に手を振って帰って行った。
本当にコロッケを食べて、また寄ってくるのだろう。
忙しい時間帯も終わり、お店を閉める頃には商店街には誰も歩いていない。
エプロンを外し、スマートフォンを取り出す。
『終わりました』
そう送ると、すぐに既読がつく。
『今、お店の前!』
「早っ」
あまりのメッセージの早さに思わず笑ってしまった。
まるで連絡が来るのを待って、スマートフォンを握りしめていたみたいだ。
「ほら朝陽くんが迎えに来てくれたみたいよ」
母さんがいる調理場からは、朝陽先輩が見えるのだろう。
「じゃあ、行ってくるね!」
僕が外へ出ようとすると、母さんが小さく笑った。
「直も楽しい先輩と仲良くなったわね」
「朝陽先輩のこと?」
「ええ。最近、本当に楽しそうよ」
そう言われても、いまいち実感は湧かない。
ただ、一緒にご飯を食べたり、料理の話をしたり、お店の中で少しだけ時間を過ごしたり。
一日のわずかな時間だけど、不思議と毎日が賑やかになっていた。



