ヤンキーたちには屋上から退場してもらい、卯乃と蛇石にはこのまま残ってもらい……4人で円になって座り、弥生が作った弁当を見る。
「……お粥よりは、上達はしてる、わね……」
「弥生〜、どうしたらこんなに焦がすんだよ〜」
「う、う、うるせえ! 火加減とかわからなったんだよ!」
卯乃と蛇石から散々の文句だ。
真っ黒のお粥を見た時ほどの衝撃はなかったが、色とりどりのおかず……というには少々茶色が多い。
だし巻き卵。自分で作ってみたんだ。
僕が初めて作ってみた時のことを思い出す。最初は僕も難しくて、形は歪で、表面も焦がしたりして。上手にできたところだけを卯乃の弁当に詰めたりしていたっけ。
「懐かしいな……」
不安そうな顔している弥生に見つめられているのを感じながら、箸で1個摘んで口に入れる。数回咀嚼し……。
「しょっ……ぱっ⁉︎ けほっ、ごほっ!」
「え?」
「弥生……塩入れすぎ……喉が痛いよ……」
「え? あ、そう?」
「味見しなよ〜……」
「あ、うん。してない。すまん」
料理初心者の反応に苦笑する。これもそのうち良い思い出になるだろう。
僕から不評だった弥生の弁当を卯乃と蛇石も1つずつ口に含む。
「……甘すぎ!」
「……しょっぱすぎ〜! ……え?」
「塩と砂糖間違えたんじゃないでしょうね……」
弥生が「間違えてねえし!」と言っているが、まあ2人の感想が「甘すぎ」と「しょっぱすぎ」なので間違えているだろう。
「……いつも卯月に手料理振る舞ってもらってるから、俺も何か返したいと思ってたんだけど……俺に料理は無理そうだ」
ヤンキーらしからぬ体育座りをして弥生は落ち込んでしまう。
少し前まで、見返りがない料理は嫌だと僕はわがままを言った。
でもそれは、たった今解消されたんだよ。
僕はもう、既にたくさんのものを返してもらっているよ。
「弥生が、僕の作ったものを『美味しい』ってたくさん食べてくれるだけで、僕は十分なんだよ」
「……卯月」
「料理を作ることは負担じゃないんだ。弥生がこれからも……健康的な生活して、僕に……笑いかけてくれるだけで……嬉しい、から」
本音を言うのって勇気いるし恥ずかしい。今は妹の卯乃や友人の蛇石だっているのだ。それでも、今弥生に伝えたかった。
お腹空くと不機嫌になっちゃうから。
そして体調も崩しがちで、日常を楽しめないから。
「……これからも弥生のお腹、僕に満たさせて」
それで僕の心が満たされるから。
「……もう、誰も家に連れ込まない。卯月だけを呼ぶ。もう、誰とも……関係持たないから。……約束する」
体育座りから正座になって、弥生は宣言する。
「硬派だなあ」
僕たちだけの関係。築いていこうね。
*
「お兄ちゃん……明日から、弁当……の作り方教えてくれない⁉︎」
家の玄関を開ける時、卯乃に突然言われる。「どうしたの」と問えば先ほどまで家まで送り届けてくれた弥生……の隣にいる蛇石を卯乃は見つめていた。
「……なるほど!」
「お、お兄ちゃんよりも上手には出来ないと思うんだけど……わたしも、関係築いていきたいと思って……」
僕は卯乃に向き直り、微笑む。
「応援する。明日、一緒にやろう。だから早起き頑張って」
「……ありがとう、お兄ちゃん!」
お兄ちゃんも、妹の恋を心からやっと応援することが出来て嬉しいよ。
*
「……お兄ちゃん。やっぱりやめる。渡すのやめる」
「……え⁉︎ なんで! 僕が初めて作った時よりもすごく見栄えも味もいいはずだよ⁉︎」
「勇気出ない……怖い……お腹痛い……」
屋上までいく階段の手前で。卯乃は立ち止まる。緊張でお腹が痛くなるほど、卯乃は本気の恋をしてしまったようだった。人を好きになるというのはいつも突然で、不思議な引き合わせだ。
「……お兄ちゃんは、どうやって弥生と仲良くなったの?」
「僕? 僕は初めて弁当渡す時は『どうにかなれ!』って渡して……捨てられたんだけど」
「今思い返しても腹立つ」
「はは。でも、その後が大事だったかも。……焼きそばパンしか買わない弥生に、家まで押しかけて夕食作るっていう……今思うとすごい強引だったと思うし、弥生の懐の深さが……あったから、毎日作ることができたんだと思う」
蛇石も見た目が怖いヤンキーだが、僕が作った弁当を開口一番「美味しそう」と褒めてくれた人だ。そして捨てられた弁当を弥生の代わりに頭を下げて謝ってくれた。とても良い人だと僕は思う。
卯乃が好きになるのもわかるから。
「……蛇石くんは、絶対に適当な返事はしない人だから。大丈夫だよ」
「……わかった! タイマンしてくる!」
「た……タイマン⁉︎」
「今日、体育館裏で決闘する約束してたの! 行ってきます!」
「え、ええ〜⁉︎」
お兄ちゃんやっぱりヤンキーとか女番長わからない!
一気に階段を駆け降りていく卯乃に「が、頑張れよ!」と声をかけてから。僕は屋上に向かっていく。
「弥生。お待たせ」
フェンスの前に立って空を見上げている弥生に声をかける。弥生は振り返って「おう」と柔らかい笑みを向けてくれる。
「面白いもん見つけたわ。体育館裏。タイマンすると思ったら、卯乃の奴、弁当出してきた」
「……ここから丸見えかあ」
弥生の隣に並ぶと、確かに両手で弁当を持って差し出している卯乃がいた。てっきりただの決闘だと思っていた蛇石は面食らったような顔で頬をポリポリ掻いていた。その顔はじわじわと赤くなっていく。
「……この先は、2人から後で直接聞こう」
僕たちはフェンスから離れて地べたに座り、2人分のランチクロスを広げる。
「じゃ〜ん! 今日はカツ丼!」
「すっげえ……美味そう……てか、勝つだけに?」
「卯乃のリクエストでした」
「ははっ、面白いな、卯月の妹は」
いただきます、と手を合わせて弁当箱を持とうとすれば「卯月」と声をかけられる。「ん?」と返事した時には、頬にキス。
「わ、」
「いつも美味しいもの作ってくれてありがとう」
「……うん」
弥生が微笑んでくれるだけで。
僕は十分幸せです。
好きな人の笑顔が見られるなら、毎日弁当作るのも苦ではありません【完】
「……お粥よりは、上達はしてる、わね……」
「弥生〜、どうしたらこんなに焦がすんだよ〜」
「う、う、うるせえ! 火加減とかわからなったんだよ!」
卯乃と蛇石から散々の文句だ。
真っ黒のお粥を見た時ほどの衝撃はなかったが、色とりどりのおかず……というには少々茶色が多い。
だし巻き卵。自分で作ってみたんだ。
僕が初めて作ってみた時のことを思い出す。最初は僕も難しくて、形は歪で、表面も焦がしたりして。上手にできたところだけを卯乃の弁当に詰めたりしていたっけ。
「懐かしいな……」
不安そうな顔している弥生に見つめられているのを感じながら、箸で1個摘んで口に入れる。数回咀嚼し……。
「しょっ……ぱっ⁉︎ けほっ、ごほっ!」
「え?」
「弥生……塩入れすぎ……喉が痛いよ……」
「え? あ、そう?」
「味見しなよ〜……」
「あ、うん。してない。すまん」
料理初心者の反応に苦笑する。これもそのうち良い思い出になるだろう。
僕から不評だった弥生の弁当を卯乃と蛇石も1つずつ口に含む。
「……甘すぎ!」
「……しょっぱすぎ〜! ……え?」
「塩と砂糖間違えたんじゃないでしょうね……」
弥生が「間違えてねえし!」と言っているが、まあ2人の感想が「甘すぎ」と「しょっぱすぎ」なので間違えているだろう。
「……いつも卯月に手料理振る舞ってもらってるから、俺も何か返したいと思ってたんだけど……俺に料理は無理そうだ」
ヤンキーらしからぬ体育座りをして弥生は落ち込んでしまう。
少し前まで、見返りがない料理は嫌だと僕はわがままを言った。
でもそれは、たった今解消されたんだよ。
僕はもう、既にたくさんのものを返してもらっているよ。
「弥生が、僕の作ったものを『美味しい』ってたくさん食べてくれるだけで、僕は十分なんだよ」
「……卯月」
「料理を作ることは負担じゃないんだ。弥生がこれからも……健康的な生活して、僕に……笑いかけてくれるだけで……嬉しい、から」
本音を言うのって勇気いるし恥ずかしい。今は妹の卯乃や友人の蛇石だっているのだ。それでも、今弥生に伝えたかった。
お腹空くと不機嫌になっちゃうから。
そして体調も崩しがちで、日常を楽しめないから。
「……これからも弥生のお腹、僕に満たさせて」
それで僕の心が満たされるから。
「……もう、誰も家に連れ込まない。卯月だけを呼ぶ。もう、誰とも……関係持たないから。……約束する」
体育座りから正座になって、弥生は宣言する。
「硬派だなあ」
僕たちだけの関係。築いていこうね。
*
「お兄ちゃん……明日から、弁当……の作り方教えてくれない⁉︎」
家の玄関を開ける時、卯乃に突然言われる。「どうしたの」と問えば先ほどまで家まで送り届けてくれた弥生……の隣にいる蛇石を卯乃は見つめていた。
「……なるほど!」
「お、お兄ちゃんよりも上手には出来ないと思うんだけど……わたしも、関係築いていきたいと思って……」
僕は卯乃に向き直り、微笑む。
「応援する。明日、一緒にやろう。だから早起き頑張って」
「……ありがとう、お兄ちゃん!」
お兄ちゃんも、妹の恋を心からやっと応援することが出来て嬉しいよ。
*
「……お兄ちゃん。やっぱりやめる。渡すのやめる」
「……え⁉︎ なんで! 僕が初めて作った時よりもすごく見栄えも味もいいはずだよ⁉︎」
「勇気出ない……怖い……お腹痛い……」
屋上までいく階段の手前で。卯乃は立ち止まる。緊張でお腹が痛くなるほど、卯乃は本気の恋をしてしまったようだった。人を好きになるというのはいつも突然で、不思議な引き合わせだ。
「……お兄ちゃんは、どうやって弥生と仲良くなったの?」
「僕? 僕は初めて弁当渡す時は『どうにかなれ!』って渡して……捨てられたんだけど」
「今思い返しても腹立つ」
「はは。でも、その後が大事だったかも。……焼きそばパンしか買わない弥生に、家まで押しかけて夕食作るっていう……今思うとすごい強引だったと思うし、弥生の懐の深さが……あったから、毎日作ることができたんだと思う」
蛇石も見た目が怖いヤンキーだが、僕が作った弁当を開口一番「美味しそう」と褒めてくれた人だ。そして捨てられた弁当を弥生の代わりに頭を下げて謝ってくれた。とても良い人だと僕は思う。
卯乃が好きになるのもわかるから。
「……蛇石くんは、絶対に適当な返事はしない人だから。大丈夫だよ」
「……わかった! タイマンしてくる!」
「た……タイマン⁉︎」
「今日、体育館裏で決闘する約束してたの! 行ってきます!」
「え、ええ〜⁉︎」
お兄ちゃんやっぱりヤンキーとか女番長わからない!
一気に階段を駆け降りていく卯乃に「が、頑張れよ!」と声をかけてから。僕は屋上に向かっていく。
「弥生。お待たせ」
フェンスの前に立って空を見上げている弥生に声をかける。弥生は振り返って「おう」と柔らかい笑みを向けてくれる。
「面白いもん見つけたわ。体育館裏。タイマンすると思ったら、卯乃の奴、弁当出してきた」
「……ここから丸見えかあ」
弥生の隣に並ぶと、確かに両手で弁当を持って差し出している卯乃がいた。てっきりただの決闘だと思っていた蛇石は面食らったような顔で頬をポリポリ掻いていた。その顔はじわじわと赤くなっていく。
「……この先は、2人から後で直接聞こう」
僕たちはフェンスから離れて地べたに座り、2人分のランチクロスを広げる。
「じゃ〜ん! 今日はカツ丼!」
「すっげえ……美味そう……てか、勝つだけに?」
「卯乃のリクエストでした」
「ははっ、面白いな、卯月の妹は」
いただきます、と手を合わせて弁当箱を持とうとすれば「卯月」と声をかけられる。「ん?」と返事した時には、頬にキス。
「わ、」
「いつも美味しいもの作ってくれてありがとう」
「……うん」
弥生が微笑んでくれるだけで。
僕は十分幸せです。
好きな人の笑顔が見られるなら、毎日弁当作るのも苦ではありません【完】



