「カンパーイ!」
「やったね、オックン!」
「ありがとうございます!」
結局、投票は行わずに僕の副会長が決まった。
今思い返しても、あのオックンコールは鳥肌ものだった。
あんなに自分の名前が連呼されるなんて……
「今日は牛乳じゃないのか?」
「はぁ? だからホットミルクです。牛乳じゃないです。今日は抹茶オレが飲みたかったんです!」
「はい、はい」
この間、昆野先輩と一緒に来たカフェで太刀山先輩と昆野先輩が僕を労ってくれている。
「どういうこと? 二人で来たことあるんだ?」
「いや、たまたま会ったんだよ。そしたらコイツが牛乳飲んでいて驚いた」
「そ、そうなんです。温かいミルクが飲みたくて」
「オックンもこの店知ってたんだ? 俺ら二人ぐらいしか、ウチの学校の生徒見たことないけど」
「はい。たまたまです……」
嘘は吐きたくなかったけど、昆野先輩が誤魔化すから僕はそれに従った。
でも、あの相談事は誰にも話さないって言ってくれたのは、昆野先輩だから、内緒にするしかない。
太刀山先輩、ごめんなさい……
「オックンのスピーチには感動した。すごいね、あんなに素敵な言葉を紡げるんだね」
「紡げる……そんな、大層な文章ではないです。自分でもビックリしました。ほとんど原稿にはない言葉だったので」
「スゴっ! やっぱり見込んだだけあったよ、そう思うだろ、凪?」
「お前の審美眼は確かだもんな。俺も感動した」
「しーんとしちゃったから焦ったんですけど、昆野先輩が最初に拍手してくれて嬉しかったです」
『全力で応援してやる』その宣言通り、実行してくれた。
「想像以上に内容が良かったからな。自然とね」
珍しく、昆野先輩が照れたような表情をした。
いつも、ニヒルに笑っているか、冷めているかのどっちかなのに。
「クールで無愛想な昆野先輩にも響いたのなら本望です」
「無愛想って、おまっ……」
昆野先輩が、ストローの袋を向かいに座っている僕に投げようとするけど、全く飛ばずに床に落ちたのを見て、僕は声を出して笑ってしまった。
それにつられて、昆野先輩も笑っている。
太刀山先輩は、静かにカップを口に当てていた。
僕はちょっと気まずくなり、ストローを咥えた。
沈黙が流れる……僕が何か言わなきゃ……
「俺行くわ」
「え?」
いきなり昆野先輩が、飲みかけのカップを掴むと席を立った。
「ちょっと行くところあってさ。じゃ、タチまた明日な。奥も」
「お、お疲れさまでした」
ドアに向かって歩いていた昆野先輩が一瞬振り返ると、僕の顔を見た気がした。
太刀山先輩は手をひらひらと昆野先輩に振っていた。
二人だけになると、途端に僕は隣に座っている太刀山先輩を意識してしまう。
「凪はいい奴だろ」
「は? え、ええ。話しやすいです」
「うん。イイ男だよね。ホント、頼れる奴」
太刀山先輩の言い方が少し引っかかった。
でも、そこを掘り下げられない。
「……オックン」
「はい」
太刀山先輩は隣にいる僕に、身体ごと向き直った。
僕も正面から、先輩の視線に合わせる。
「オックンを生徒会に誘った理由……もう気づいていたかもしれないけど。巧からオックンのことを何度も聞いて、気になっていた」
「え!」
僕が一番聞きたかった理由。
巧のことと関係していたことはわかっていたけど、あらためて話をされるとちょっと心が落ち着かなくなる。
「でも、巧がああいうことになって、酷い奴だと思って見るようになった。親友としての巧を裏切ったのかって。ただ、それって自分の巧に対する罪悪感をオックンにぶつけていただけだったんだよな。バレンタインの頃かな? 下駄箱の側にある目安箱にオックンが投函しているのを見たんだ」
「嘘……だって、あんな忘れ去られた箱」
太刀山先輩の口角が上がると、手で口元を押さえた。
「いや、ホントだよ。今時、手書きの紙を箱に入れるっていつの時代だよって。でも、オックンはそれをしていたよね。ヘンな奴って思っていたけど、それ、毎週やってただろ」
「……毎週見てたんですか? 恥ずかしすぎる」
僕は思わず両手で顔を覆った。
絶対誰にも見られてないと思っていた姿を、見ていた人がいるなんて。
しかも太刀山先輩が!
「なんでだよ。それ見てさ、巧が言っていたこととマッチして。勝手に最低な奴だって決めつけていた俺が間違ってたなーって。で、目安箱に何かを投函するってことは、学校に言いたいことがあるんだろうなって思ったんだよね」
「あー……はい」
「でさ、イイ奴だなーって、一緒にやりたいなって思ったわけ」
僕は、巧の一件から疑問に思ったことや、直して欲しいことを目安箱に投函していた。
正直、あの箱の中身が回収されているのかさえ、疑問だったけど。
「僕は罪悪感をあの目安箱に投函することで、少しは軽くしたいと思ってたんです。誰のためでもなく、なにかをしたかった」
「全然、モブじゃないじゃん。人と必要以上に絡まないだけで、自分で考えて人のために行動してるじゃん」
恥ずかしいことじゃ、なかったのかな……
「……だから、好きになった。オックンのこと」
「……」
そうだったらいいのになって、何度そう思って、何度打ち消したかわからない。
でも、今面と向かって告白された。
太刀山先輩が僕の両手を握る。
「僕も好きです。ナンパされてからずっと、ずっと」
「うん。知ってた」
二人で笑ってしまった。
僕が好きな乳酸飲料を差し出してくれたことを思い出した。
ずっと、僕のことを見ていてくれたのかな?
カフェを出ると、自然と手を繋いでいた。
僕とは全く住む世界が違う人だと思っていたのに。
「ゴホッ、ゴホッ」
「大丈夫ですか? また熱出てません?」
「ごめん。オックンにうつしそうだから、ちょっと離れた方がいいかも」
太刀山先輩は繋いだ手を放そうとするけど、僕はがっしりと握り直した。
「ダメです。絶対放しちゃダメ。風邪なんて全然怖くないです」
「……そっか」
「大好き……」
「……俺も」
互いに恥ずかしくなって、手を繋いだまま肩をぶつけ合いながら歩いていた。
「やったね、オックン!」
「ありがとうございます!」
結局、投票は行わずに僕の副会長が決まった。
今思い返しても、あのオックンコールは鳥肌ものだった。
あんなに自分の名前が連呼されるなんて……
「今日は牛乳じゃないのか?」
「はぁ? だからホットミルクです。牛乳じゃないです。今日は抹茶オレが飲みたかったんです!」
「はい、はい」
この間、昆野先輩と一緒に来たカフェで太刀山先輩と昆野先輩が僕を労ってくれている。
「どういうこと? 二人で来たことあるんだ?」
「いや、たまたま会ったんだよ。そしたらコイツが牛乳飲んでいて驚いた」
「そ、そうなんです。温かいミルクが飲みたくて」
「オックンもこの店知ってたんだ? 俺ら二人ぐらいしか、ウチの学校の生徒見たことないけど」
「はい。たまたまです……」
嘘は吐きたくなかったけど、昆野先輩が誤魔化すから僕はそれに従った。
でも、あの相談事は誰にも話さないって言ってくれたのは、昆野先輩だから、内緒にするしかない。
太刀山先輩、ごめんなさい……
「オックンのスピーチには感動した。すごいね、あんなに素敵な言葉を紡げるんだね」
「紡げる……そんな、大層な文章ではないです。自分でもビックリしました。ほとんど原稿にはない言葉だったので」
「スゴっ! やっぱり見込んだだけあったよ、そう思うだろ、凪?」
「お前の審美眼は確かだもんな。俺も感動した」
「しーんとしちゃったから焦ったんですけど、昆野先輩が最初に拍手してくれて嬉しかったです」
『全力で応援してやる』その宣言通り、実行してくれた。
「想像以上に内容が良かったからな。自然とね」
珍しく、昆野先輩が照れたような表情をした。
いつも、ニヒルに笑っているか、冷めているかのどっちかなのに。
「クールで無愛想な昆野先輩にも響いたのなら本望です」
「無愛想って、おまっ……」
昆野先輩が、ストローの袋を向かいに座っている僕に投げようとするけど、全く飛ばずに床に落ちたのを見て、僕は声を出して笑ってしまった。
それにつられて、昆野先輩も笑っている。
太刀山先輩は、静かにカップを口に当てていた。
僕はちょっと気まずくなり、ストローを咥えた。
沈黙が流れる……僕が何か言わなきゃ……
「俺行くわ」
「え?」
いきなり昆野先輩が、飲みかけのカップを掴むと席を立った。
「ちょっと行くところあってさ。じゃ、タチまた明日な。奥も」
「お、お疲れさまでした」
ドアに向かって歩いていた昆野先輩が一瞬振り返ると、僕の顔を見た気がした。
太刀山先輩は手をひらひらと昆野先輩に振っていた。
二人だけになると、途端に僕は隣に座っている太刀山先輩を意識してしまう。
「凪はいい奴だろ」
「は? え、ええ。話しやすいです」
「うん。イイ男だよね。ホント、頼れる奴」
太刀山先輩の言い方が少し引っかかった。
でも、そこを掘り下げられない。
「……オックン」
「はい」
太刀山先輩は隣にいる僕に、身体ごと向き直った。
僕も正面から、先輩の視線に合わせる。
「オックンを生徒会に誘った理由……もう気づいていたかもしれないけど。巧からオックンのことを何度も聞いて、気になっていた」
「え!」
僕が一番聞きたかった理由。
巧のことと関係していたことはわかっていたけど、あらためて話をされるとちょっと心が落ち着かなくなる。
「でも、巧がああいうことになって、酷い奴だと思って見るようになった。親友としての巧を裏切ったのかって。ただ、それって自分の巧に対する罪悪感をオックンにぶつけていただけだったんだよな。バレンタインの頃かな? 下駄箱の側にある目安箱にオックンが投函しているのを見たんだ」
「嘘……だって、あんな忘れ去られた箱」
太刀山先輩の口角が上がると、手で口元を押さえた。
「いや、ホントだよ。今時、手書きの紙を箱に入れるっていつの時代だよって。でも、オックンはそれをしていたよね。ヘンな奴って思っていたけど、それ、毎週やってただろ」
「……毎週見てたんですか? 恥ずかしすぎる」
僕は思わず両手で顔を覆った。
絶対誰にも見られてないと思っていた姿を、見ていた人がいるなんて。
しかも太刀山先輩が!
「なんでだよ。それ見てさ、巧が言っていたこととマッチして。勝手に最低な奴だって決めつけていた俺が間違ってたなーって。で、目安箱に何かを投函するってことは、学校に言いたいことがあるんだろうなって思ったんだよね」
「あー……はい」
「でさ、イイ奴だなーって、一緒にやりたいなって思ったわけ」
僕は、巧の一件から疑問に思ったことや、直して欲しいことを目安箱に投函していた。
正直、あの箱の中身が回収されているのかさえ、疑問だったけど。
「僕は罪悪感をあの目安箱に投函することで、少しは軽くしたいと思ってたんです。誰のためでもなく、なにかをしたかった」
「全然、モブじゃないじゃん。人と必要以上に絡まないだけで、自分で考えて人のために行動してるじゃん」
恥ずかしいことじゃ、なかったのかな……
「……だから、好きになった。オックンのこと」
「……」
そうだったらいいのになって、何度そう思って、何度打ち消したかわからない。
でも、今面と向かって告白された。
太刀山先輩が僕の両手を握る。
「僕も好きです。ナンパされてからずっと、ずっと」
「うん。知ってた」
二人で笑ってしまった。
僕が好きな乳酸飲料を差し出してくれたことを思い出した。
ずっと、僕のことを見ていてくれたのかな?
カフェを出ると、自然と手を繋いでいた。
僕とは全く住む世界が違う人だと思っていたのに。
「ゴホッ、ゴホッ」
「大丈夫ですか? また熱出てません?」
「ごめん。オックンにうつしそうだから、ちょっと離れた方がいいかも」
太刀山先輩は繋いだ手を放そうとするけど、僕はがっしりと握り直した。
「ダメです。絶対放しちゃダメ。風邪なんて全然怖くないです」
「……そっか」
「大好き……」
「……俺も」
互いに恥ずかしくなって、手を繋いだまま肩をぶつけ合いながら歩いていた。



