昆野先輩に相談できて、肩の力が抜けた。
気を遣うことなく、思っていることを話せたことが不思議だった。
ぶっきらぼうで、冷めているようで、実はすべてをお見通しって、ゲームの中のラスボスみたいな人だな。
僕は躊躇することなく、太刀山先輩にLINEを送った。
――こんばんは。お身体大丈夫ですか? 学校で言おうと思っていましたが、すぐに伝えたくて、LINEしました。僕は副会長に挑戦したいと思います。未熟者ですが先輩のお役に立てるように頑張ります。よろしくお願いします!
「……送っちゃった」
何度も何度も送ったテキストを読み返す。
後悔はしない、太刀山先輩を信じて付いて行くだけだ。
僕が生徒会の副会長になったって言っても、お母さんたちは信じないかも……
想像するだけで、可笑しかった。
LINEの電話が鳴った。
太刀山先輩!?
「もしもし。大丈夫ですか?」
『うん。嬉しくて電話しちゃった』
聞こえてくる太刀山先輩の声は少し掠れていて、元気がない。
「はい。先輩の足を引っ張らないように頑張ります」
『オックン、ありがとう。声聞いて熱も下がりそうだよ』
「え、無理しないでください……。早く伝えたかっただけなので」
『ゴホッ、ゴホッ。ごめん。咳が止まらなくて。熱が下がったら明日は学校行くから』
「はい、でもこれからが大事なので……」
『早くオックンに会いたいからさ』
「え……」
僕が言い終わる前に、太刀山先輩の声が被った。
「……僕も先輩に会いたいです。すごく、すごく……」
自然と口にしていた。
恥ずかしいとか、照れるとか、そんな感情は一ミリも沸かなかった。
ただ、先輩に会いたかったから。
『俺もすごく会いたい。だからもう寝る! 頑張って熱をやっつける!』
「はい! 僕が先輩に向けて念を送ります!」
『あはっ。可愛いなーオックンは。その念受け止めた』
「お大事にしてください」
『ありがと。おやすみ』
「おやすみなさい」
大好きです……この言葉だけは飲み込んだ。
🔸🔸🔸
太刀山先輩に生徒会にナンパされて、まだ十日程度しか経っていないのに、僕の人生は180度変わった。
って言ってもオーバーじゃないよな。
教室の壁の一部になっていた僕が、クラス以外の人からも名前を呼ばれるようになった。相談する相手もできて、好きな人もいる!
どういうこと? 好きな人って!
おでこにキスをされて手まで繋いだ!
漫画みたいだ!
でも、残念ながらこの状況を共有できる相手がいない。
だから学校に向かうバスの中で、一人語りをしている。
「おはよう、オックン」
「太刀山先輩!」
バス停にマスク姿の太刀山先輩が立っていた。
「え、待っていてくれたんですか? 大丈夫ですか! 熱は?」
「うん、熱は下がった。オックンの念のおかげで。でも咳が止まらないからマスクしてきたけど、ちょっと距離を取ったほうがいいかも」
「大丈夫です! 僕はなかなか風邪を引かないので!」
「そ、そっか。そんな笑顔で言われるとなんだか安心した」
先輩に言われて気がついた。
僕は嬉しい気持ちを、顔全体で表していたみたいだ。
ちょっとキモいな……
「行こうか」
「はい!」
校舎に向かって二人で歩いていると、最初に声を掛けられた時のように周りから見られているのを感じる。
でも、あの時のようにオドオドした自分はいなかった。
僕は太刀山先輩と並んで歩いても、誰も気にしないぐらいの人になる。
「放課後、対策委員会開くから来てくれる? その場でオックンの決意表明をして欲しい」
「はい。大丈夫です。一応、原稿作ってきました」
「マジで? すごいなー。頼もしい。ついこの間までのオックンとは別人だね」
「……先輩の期待に応えたいです」
「……もう応えてくれてるよ」
二年生と三年生の校舎の入り口は異なる。
各々の入り口に向かおうとすると、先輩は僕の右手を強く握って、去って行った。
太刀山先輩はズルい……
放課後、僕は誰よりも早く部屋に入って待っていた。
原稿はスマホにスクショしてある。
ほとんど暗記していたけど、それでも何回もスクショの文字を確認していた。
部屋の中に、メンバーがゾロゾロと入り始めた。
愛想よく僕に挨拶をしてくれる人、目を逸らす人、あごで挨拶する人など様々だ。
明らかに、初めてこの部屋に来た時よりも歓迎されていない感じがした。
仕方ない。
LINEでの議論もすべて読んだけど、そりゃ面白く思わない人もいる。
でも、もう僕は後に引くつもりはなかった。
太刀山先輩と昆野先輩が最後に入ってきた。
「ゴホッ、ゴホッ。ゴメンちょっと咳が出て聞きづらいとは思うけど、我慢して。今日はLINEでも散々議論した副会長の件について決めたいです。オックンには決意表明をしてもらう。異論を唱える人もいたけど、結局他に副会長になりたいと手を挙げてくれる人はいなかったな。でも、投票はしたいと思う。いいかな、オックン?」
「は、はい……」
投票されるのか……ここで、僕がどう思われるかがハッキリする。
公平なやり方ではあるけど。
「じゃ、決意表明お願いしていい?」
僕は頷くと、皆の前に立った。
すーっと軽く息を吐くと、後ろで立っている昆野先輩と目が合った。
軽く頷いてくれたことに、心が落ち着いた。
「お時間を頂きましてありがとうございます。太刀山先輩にご指名いただきまして、副会長の任に就きたいと考えています。僕が掲げる公約は、太刀山先輩と一字一句相違はありません。ただ、僕が経験してきたこととして言わせてください。僕はモブでした。クラスの中でも学年の中でも、全校生徒の中でも。だから、二年生の皆さんも僕の存在をこの部屋で初めて知った人も多いと思います」
少し笑いが出た。
その笑いによって、余裕ができた。
「モブって良い言葉ですよね。影が薄い奴って言われるよりもちょっとオシャレな感じがして、僕は嫌いではないです。でも、もう二度とその言葉を自分に使うなと太刀山先輩に言われました」
僕よりも一歩下がって立っていた太刀山先輩の、頭がうんうんと頷くように揺れた。
「だからもう使いません。僕は壁の一部になることで、面倒なことや煩わしいことから逃げていました。ただ成績だけ上位にいればいいって。自分の囲いの中に入っていれば安心だからって。でもそれによって、僕は後悔していることがあります。もう二度とそういう思いをしたくないです。だから、先輩が掲げている一年から三年までの縦割りでのコミュニケーションやネットでの意見箱収集には大賛成です。同じ学年だけで閉じていても、正解が出ないことが多いから。先輩や後輩の知恵を借りるって、得をすることはあっても、絶対損をすることはないです。あの時、クラスの中だけで閉じずにもっと広い視野を持つべきだったと思っています。だから、僕はこの機会に、懺悔の意味も込めて副会長としてこの学校を太刀山先輩と良くしていきたいです。頑張ります。よろしくお願いします!」
言い切った僕は、頭を深く下げた。
原稿には書いてないことを、話していた。
言葉が次から次へと出て来て、自分でも止めることができなかった。
支離滅裂だったかもしれない……でも今の僕から湧き上がった言葉だった。
しーんと静まり返った、沈黙が怖い……
一人の拍手の音が聞こえた。
思わず顔を上げると、一番後ろにいる昆野先輩が力強く手を叩いていた。
その音に導かれるように、一人、また一人と立ち上がり、気が付くと部屋の中の全員が僕に拍手をしてくれていた。
え、どういうこと?
「すごいよ、オックン!」
太刀山先輩の手が僕の右手を高く上げた。
「オックン! オックン! オックン!」
部屋中にオックンコールが響いた。
僕は受け入れられた……みたいだ。
気を遣うことなく、思っていることを話せたことが不思議だった。
ぶっきらぼうで、冷めているようで、実はすべてをお見通しって、ゲームの中のラスボスみたいな人だな。
僕は躊躇することなく、太刀山先輩にLINEを送った。
――こんばんは。お身体大丈夫ですか? 学校で言おうと思っていましたが、すぐに伝えたくて、LINEしました。僕は副会長に挑戦したいと思います。未熟者ですが先輩のお役に立てるように頑張ります。よろしくお願いします!
「……送っちゃった」
何度も何度も送ったテキストを読み返す。
後悔はしない、太刀山先輩を信じて付いて行くだけだ。
僕が生徒会の副会長になったって言っても、お母さんたちは信じないかも……
想像するだけで、可笑しかった。
LINEの電話が鳴った。
太刀山先輩!?
「もしもし。大丈夫ですか?」
『うん。嬉しくて電話しちゃった』
聞こえてくる太刀山先輩の声は少し掠れていて、元気がない。
「はい。先輩の足を引っ張らないように頑張ります」
『オックン、ありがとう。声聞いて熱も下がりそうだよ』
「え、無理しないでください……。早く伝えたかっただけなので」
『ゴホッ、ゴホッ。ごめん。咳が止まらなくて。熱が下がったら明日は学校行くから』
「はい、でもこれからが大事なので……」
『早くオックンに会いたいからさ』
「え……」
僕が言い終わる前に、太刀山先輩の声が被った。
「……僕も先輩に会いたいです。すごく、すごく……」
自然と口にしていた。
恥ずかしいとか、照れるとか、そんな感情は一ミリも沸かなかった。
ただ、先輩に会いたかったから。
『俺もすごく会いたい。だからもう寝る! 頑張って熱をやっつける!』
「はい! 僕が先輩に向けて念を送ります!」
『あはっ。可愛いなーオックンは。その念受け止めた』
「お大事にしてください」
『ありがと。おやすみ』
「おやすみなさい」
大好きです……この言葉だけは飲み込んだ。
🔸🔸🔸
太刀山先輩に生徒会にナンパされて、まだ十日程度しか経っていないのに、僕の人生は180度変わった。
って言ってもオーバーじゃないよな。
教室の壁の一部になっていた僕が、クラス以外の人からも名前を呼ばれるようになった。相談する相手もできて、好きな人もいる!
どういうこと? 好きな人って!
おでこにキスをされて手まで繋いだ!
漫画みたいだ!
でも、残念ながらこの状況を共有できる相手がいない。
だから学校に向かうバスの中で、一人語りをしている。
「おはよう、オックン」
「太刀山先輩!」
バス停にマスク姿の太刀山先輩が立っていた。
「え、待っていてくれたんですか? 大丈夫ですか! 熱は?」
「うん、熱は下がった。オックンの念のおかげで。でも咳が止まらないからマスクしてきたけど、ちょっと距離を取ったほうがいいかも」
「大丈夫です! 僕はなかなか風邪を引かないので!」
「そ、そっか。そんな笑顔で言われるとなんだか安心した」
先輩に言われて気がついた。
僕は嬉しい気持ちを、顔全体で表していたみたいだ。
ちょっとキモいな……
「行こうか」
「はい!」
校舎に向かって二人で歩いていると、最初に声を掛けられた時のように周りから見られているのを感じる。
でも、あの時のようにオドオドした自分はいなかった。
僕は太刀山先輩と並んで歩いても、誰も気にしないぐらいの人になる。
「放課後、対策委員会開くから来てくれる? その場でオックンの決意表明をして欲しい」
「はい。大丈夫です。一応、原稿作ってきました」
「マジで? すごいなー。頼もしい。ついこの間までのオックンとは別人だね」
「……先輩の期待に応えたいです」
「……もう応えてくれてるよ」
二年生と三年生の校舎の入り口は異なる。
各々の入り口に向かおうとすると、先輩は僕の右手を強く握って、去って行った。
太刀山先輩はズルい……
放課後、僕は誰よりも早く部屋に入って待っていた。
原稿はスマホにスクショしてある。
ほとんど暗記していたけど、それでも何回もスクショの文字を確認していた。
部屋の中に、メンバーがゾロゾロと入り始めた。
愛想よく僕に挨拶をしてくれる人、目を逸らす人、あごで挨拶する人など様々だ。
明らかに、初めてこの部屋に来た時よりも歓迎されていない感じがした。
仕方ない。
LINEでの議論もすべて読んだけど、そりゃ面白く思わない人もいる。
でも、もう僕は後に引くつもりはなかった。
太刀山先輩と昆野先輩が最後に入ってきた。
「ゴホッ、ゴホッ。ゴメンちょっと咳が出て聞きづらいとは思うけど、我慢して。今日はLINEでも散々議論した副会長の件について決めたいです。オックンには決意表明をしてもらう。異論を唱える人もいたけど、結局他に副会長になりたいと手を挙げてくれる人はいなかったな。でも、投票はしたいと思う。いいかな、オックン?」
「は、はい……」
投票されるのか……ここで、僕がどう思われるかがハッキリする。
公平なやり方ではあるけど。
「じゃ、決意表明お願いしていい?」
僕は頷くと、皆の前に立った。
すーっと軽く息を吐くと、後ろで立っている昆野先輩と目が合った。
軽く頷いてくれたことに、心が落ち着いた。
「お時間を頂きましてありがとうございます。太刀山先輩にご指名いただきまして、副会長の任に就きたいと考えています。僕が掲げる公約は、太刀山先輩と一字一句相違はありません。ただ、僕が経験してきたこととして言わせてください。僕はモブでした。クラスの中でも学年の中でも、全校生徒の中でも。だから、二年生の皆さんも僕の存在をこの部屋で初めて知った人も多いと思います」
少し笑いが出た。
その笑いによって、余裕ができた。
「モブって良い言葉ですよね。影が薄い奴って言われるよりもちょっとオシャレな感じがして、僕は嫌いではないです。でも、もう二度とその言葉を自分に使うなと太刀山先輩に言われました」
僕よりも一歩下がって立っていた太刀山先輩の、頭がうんうんと頷くように揺れた。
「だからもう使いません。僕は壁の一部になることで、面倒なことや煩わしいことから逃げていました。ただ成績だけ上位にいればいいって。自分の囲いの中に入っていれば安心だからって。でもそれによって、僕は後悔していることがあります。もう二度とそういう思いをしたくないです。だから、先輩が掲げている一年から三年までの縦割りでのコミュニケーションやネットでの意見箱収集には大賛成です。同じ学年だけで閉じていても、正解が出ないことが多いから。先輩や後輩の知恵を借りるって、得をすることはあっても、絶対損をすることはないです。あの時、クラスの中だけで閉じずにもっと広い視野を持つべきだったと思っています。だから、僕はこの機会に、懺悔の意味も込めて副会長としてこの学校を太刀山先輩と良くしていきたいです。頑張ります。よろしくお願いします!」
言い切った僕は、頭を深く下げた。
原稿には書いてないことを、話していた。
言葉が次から次へと出て来て、自分でも止めることができなかった。
支離滅裂だったかもしれない……でも今の僕から湧き上がった言葉だった。
しーんと静まり返った、沈黙が怖い……
一人の拍手の音が聞こえた。
思わず顔を上げると、一番後ろにいる昆野先輩が力強く手を叩いていた。
その音に導かれるように、一人、また一人と立ち上がり、気が付くと部屋の中の全員が僕に拍手をしてくれていた。
え、どういうこと?
「すごいよ、オックン!」
太刀山先輩の手が僕の右手を高く上げた。
「オックン! オックン! オックン!」
部屋中にオックンコールが響いた。
僕は受け入れられた……みたいだ。



