それでは、多数決をとります。

【調査記録紙片・氷室木秀真】
 氷室木秀真は、幼い頃から両親と過ごす時間が極端に少なかったらしい。
 両親は共働きで、父はWEBコンサルティング会社役員、母は県内総合病院勤務の外科医。相当の激務だ。そんな寂しさを埋めるためにバスケにのめり込むようになり、県内でも強豪と名高いチームに所属し、並外れたセンスと努力により頭角を表すようになった。
 中学時代には、県選抜チームのメンバーに抜擢された。この時、偶然にも仕事の都合のついた両親は試合を観戦。勝利後、三名で祝賀会と称したディナーを堪能したらしい。
 これを機に氷室木秀真はより一層バスケの練習に精力的になるが、数か月後の部活動練習中に部活仲間とふざけながらモップ掛けをしていた前里慶介と接触し、右足首を捻挫。全治三週間と診断され、中学3年生時の春時期の試合には欠場することとなる。なお、代わりにベンチ入りしたのが、この時怪我を負わせた前里慶介である。(ただし、ベンチ入りまでで試合には出ていない。)
 以降、氷室木秀真の人間性に非情な面が増え始める。一部、氷室木秀真のSNSの投稿を記しておく。

『やっとスタメンに入れたぜ! めっちゃ活躍してやるからなーーー!』
『初戦突破! ただ目標はやっぱり全国やから、ひたすらに練習あるのみ』
『全国行ったら、見に来てくれっかなー。俺の勇姿を見に来てくれーー!』
『県突破! いよっしゃあ! どうだ見たか!』
『マジかー。全中の予選で負けるとか。悔しいなあ。ああ悔しい。悔しい悔しい悔しい悔しい!』
『よっしゃー! アンダー15の県選抜に選ばれた! まだ飛べる! まだ走れる!』
『あ、マジで? 来てくれんの? 最高ねんけど』
『このためにバスケをやってきた。マジで嬉しい。絶対勝つ』
『勝った。ちゃんと見に来てくれたし、褒めてくれた~! バスケやってて良かったー!』
『レストラン最高。マジ肉ウマい。過去一ウマい。ウマウマすぎる笑』
『二回戦で負けたけど、まあしゃーない。まだまだ上手くなってやっからな!』
『は? マジで? 捻挫してんけど』
『全治三週間』
『クソすぎる。練習後の自主練時間にふざけるとかどういう神経してんの?』
『上手くなって試合出たいんじゃないんか?』
『モップ掛けとかさっさと終わらせて一本でも多くシュート打てや』
『だから試合に出られんのやって』
『あームカつく』
『は? アイツが俺の代わりにベンチ?』
『なんか部活後に喜んでるんやけど』
『当てつけ? ていうか、俺に怪我させたの忘れたんか?』
『ベンチ入りしたなら今まで以上に自主練くらいしろや。なんですぐに帰るんやって』
『一言怒ったらチクりやがった』
『アイツ、マジで性格悪い。あることないことまで言うとか意味わからん』
『なんか、バカらしくなってきた』
『才能ないやつは辞めろ』
『みんなのために辞めろ』
『俺のために辞めろ』

 氷室木秀真は前里慶介を恨んでいた。
 才能のない人を恨んでいた。
 一方的で、独り善がりな感情を募らせていった。

『辞めてくれ』
『頼むから、辞めてくれ』
『羨ましすぎて、おかしくなりそうだ』

 他方で、苦しんでもいたようだった。
 両親や家族が観戦にきてくれる部員やメンバーを羨んでいた。
 活躍すれば、また両親は見にきてくれると。

『それでも。どうにか、なんとか、頑張っていきたい』

 そう思っていたのかもしれなかった。


 *


【調査記録紙片・前里慶介】
 前里慶介は、氷室木秀真とは対照的にバスケが好きながらも才能に恵まれなかった。
 体格は良かったがゲームメイクは微妙、技術に関してもそこそこではあったが練習に見合った結果はまるで出ていなかった。
 だが、彼には夢があった。それは公式大会にスタメンで出場し、仲間全員で勝利を掴み取りたいという夢だった。その夢のために毎日必死に努力し、少しでも実力をつけて試合に出られるようにと取り組んでいた。
 しかし、現実はどこまでも非情で、前里慶介はどれだけ練習してもスタメンで活躍できる選手にはなれなかった。そればかりか、氷室木秀真のような才能溢れる選手との差は開くばかり。次第に前里慶介は練習への意欲を無くし、才能のある選手を羨み、ともすれば恨むようにすらなっていったようだ。
 彼には愚痴を吐き出すための裏アカがあり、そこにいくつかの投稿をしていた。

『なんで毎日毎日努力してんのに試合に出られねーんだよ』
『あいつ、なんか県選抜のメンバーに選ばれたらしい』
『いいなあ。こっちは練習試合すらまともに出られないっていうのに、なんだよこの差は』
『才能の差ってやつか?』
『うざいな。心底』
『はあーやってらんねー』
『いつもキラキラした顔して試合出てるけどよ、たまにはこっち側の気持ちを味わっても罰は当たらねーと思う』
『ダメか?』

 前里慶介が中学2年生の時、同級生の氷室木秀真は県選抜のメンバーに選ばれた。そのことを羨ましく思った彼は、どうにかして少し痛い目を見せてやりたい、悔しがる顔を見てみたい、と思うようになっていたようだ。
 未必の故意。そうなってしまっても仕方ないと思いながら、ある日、前里慶介は同じ補欠の補欠ポジションであるメンバーとモップ掛けをふざけながら行い、氷室木秀真と接触した。
 氷室木秀真は全治三週間の捻挫を負い、治っていつも通り動けるようになるまでは試合から遠ざけられた。
 しかも、その空いた一枠でベンチ入りを果たすことができた。

『よっしゃー! ようやくベンチ入り!』
『なんとか試合出られねーかな』

 そんな投稿をしていたが、結局氷室木秀真が戻ってくるまでの間、彼は試合に出ることはできなかった。
 夢はいつまでも、夢のままだった。