それでは、多数決をとります。

 理不尽で一方的な説明が終わった。
 誰も彼もが、未だに信じられないといった表情で周囲に視線を彷徨わせている。
 当たり前だ。
 補修だとかより良い未来のためにとか、あれこれと言葉を尽くしていても結局のところミライ先生なる外道がやらせようとしているのは、多数決というシステムを使った殺し合い、貶め合いだ。そんなの、到底受け入れられるはずがなかった。
 そんな全員の心を代弁するかのように前へと進み出たのは、最後に質問を投げかけた未帆乃だった。

「こんなの、間違ってる。やる必要ない」
「そ、そうだ!」
「うん、そう! やる必要なんて、ない」

 例題で名指しされた奏と伸吾が同意する。しかし、それはすぐに大仰なため息に上書きされた。

「それは全員わかってんのよ。けど、やらなかったら多分殺されるよ? 下で頭割れてるアイツみたいに」

 気怠そうに明梨が窓のほうを親指で差す。

「お前らが勝手に棄権して勝手に失格になる分にはいいけど、こっちにまでとばっちり食うのだけはごめんだから。やることはちゃんとやってよ」
「と、とばっちりって何よ! 私はただ正しいことを言ってるだけで!」
「そういうのがウザい。つかさ、やる必要ないっつって、じゃあどうやってここから出んの?」

 鼻を鳴らし、見下すように明梨は未帆乃を見やった。未帆乃はたじろぎつつも、明梨を見返す。

「そ、そんなの、スマホで警察に連絡とか」
「無理。圏外だよ、とっくに」

 明梨は手元のスマホ画面を見せてくる。確かに、通信状況を示す場所にははっきりと圏外と表示されていた。

「嘘……なんで」
「妨害電波とか、なんか仕掛けられたんでしょ。で? どうすんの?」
「だ、だったらすぐに教室から出て助けを」
「波田が出てみる?」

 明梨の問いかけに、未帆乃は口をつぐんだ。足は動かない。教室の出入口に視線だけはやっているものの、助けを呼びに行こうという意思は見えなかった。

「ほら、行けないんでしょ? 死ぬのが、殺されるのが怖いから。だったら最初から提案なんかすんなよ。何が『私は正しいことを言ってる』だ。この偽善者が」
「久瀬、その辺にしとけ」

 秀真が間に割って入った。

「今は喧嘩してても仕方ないだろ。やるしかないってんならさっさとやるぞ。時間も限られてるんだし」
「ふん」

 たしなめられた明梨は鋭く秀真を睨むも、それ以上は何も言わずに踵を返した。緊張していた教室内の空気が僅かに弛緩する。
 しかし、状況は何も解決していない。
 スクリーンには、ルールの要約のほかに、最上部に大きな白抜き文字で問いがかかれている。

『質問1 才能がない夢は、早く諦めるべきか?』

 端的な問いだ。
 しかし、意見が分かれるであろう問いでもある。それはすなわち、教室内にいる生徒が『諦めるべき』と『諦めるべきではない』の二つに分かれることを意味し、世間一般の少数派と同じ回答をしてしまえば死と向き合うことは避けられない。

「こんなデスゲームみたいなこと、本当はやりたくないがやらなければ俺たちは死んでしまう。みんな、不本意だが回答してくれ」

 秀真は教壇の上に立つと、集められた一人一人の顔を見ながら言った。彼はバスケ部に所属しており、夏に三年生が抜けてからは部長でありエースとして活躍していた。持ち前のリーダーシップを発揮した力ある声に、反対の意を示す者は出なかった。
 各自、手元のスマホやタブレットを操作していく。
 静かだった。
 やがて、画面をタップする微かな音が止んだ。
 入れ替わるように、スピーカーから甲高い鐘の音が鳴る。すると、スクリーンに映っていた要約や問いの文字が消え、新たな文字が現れた。

『全員の回答が終わりましたので、独自世論調査の結果を公表します。
 1 諦めるべき……41.7%
 2 諦めるべきではない……58.3%
 よって、「1 諦めるべき」に回答した生徒の中から死ぬべき人を多数決で決定してください』
「は?」

 素っ頓狂な声と同時に、スクリーンには「1 諦めるべき」に回答した人の名前が一覧で表示された。

「ちょっと待て。なんでだ? なんで、なんでこんな結果になんだよ!」

 リーダーシップを発揮していた力強い声は、困惑に変わっていた。

【「1 諦めるべき」に回答した生徒一覧】
 ・氷室木秀真
 ・波田未帆乃
 ・的屋卓巳
 ・白谷翔子
 ・羽山華奈
 ・多谷伸吾
 ・荒科理人
 ・三友真鈴


 *


「アハハハッ! ウケる! 揃いも揃って馬鹿かよ」

 狼狽え苛立つ秀真に、明梨は軽薄な笑い声を響かせた。先ほどたしなめられたのを根に持っているのだろう。当然、秀真は怒りの矛先を明梨に向けた。

「んだとテメェ」
「だってそうでしょ。才能がない夢を諦めるべきかどうか聞かれたのに、バスケで夢を追いかけてるアンタや、そこの偽善者女が『諦めるべき』に入れてるとか、笑うしかないでしょ?」

 なおも笑いは収まらないらしく、明梨は手を口に当ててクツクツと身体を揺すっている。そんな彼女の肩口を秀真が掴み、にじり上げた。

「俺を見下すんじゃねーよ、久瀬。逆になんでお前みたいなやつが『諦めるべき』に入れてないんだ? おかしいだろ?」
「どこが? この手の質問だったら綺麗事一択でしょ? 馬鹿正直に答えてるから馬鹿って言っただけだけど?」
「キサマ!」
「つーかさ、状況わかってる? これからアンタらの中から死ぬべき人を多数決で決めるんだけど?」

 小馬鹿にした態度から一転、低い声で告げられた状況に、秀真は弾かれたように手を離した。明梨は小さく鼻を鳴らしてから、乱れた制服を整える。

「あーあ。制服伸びちゃった、最悪。ほんとなら土下座でもしてほしいところだけど、まあ安心して。ウチはアンタじゃなくて波田に入れるつもりだから」
「なっ、なんで!?」

 それまで呆然とスクリーンを眺めていた未帆乃が叫んだ。実に楽しそうに、明梨は口元を吊り上げてみせる。

「なんでもだってもないでしょ。一覧にある8人の中だったら、アンタが一番気に入らないから」
「気に入らないって、そんな理由で……!」
「他の理由なんかいる? 多数決なんて所詮そんなもんでしょ。それとも、他にどんな方法で死ぬべき人を絞り込むわけ?」
「そ、それは……」

 未帆乃は唇を噛む。先ほど自分で「やる必要がない」と断じたばかりだ。その考えを覆し、死ぬべき人を絞り込むための「適当な」方法を説けば、自ずと不信感が募るのは目に見えていた。
 しかし、そんなことは自身の命を天秤にかければ、些細なものだった。

「……っ。それは……ここにいる8人に、どうして『諦めるべき』を選んだのか、その理由を話してもらうのがいいと思う。この補修授業の目的が『より良い未来のため』っていうなら、より良い未来とは程遠い、納得できない理由で選んだ人が、その……」
「その? ほら、なに?」
「その……死ぬべき人として、多数決の候補にするのがいいと、思う」

 言い切ってから、未帆乃は気分悪そうに顔を背けた。後ろからどうにか落ち着いたらしい翔子が駆け寄ってきて、今度は未帆乃の背中を撫で始める。
 対して明梨は、満足そうに眼を細めた。

「ふは。いいじゃん、それ。さすがウチらの元学級委員長。で? なんで選んだの?」
「……才能がない夢なら、早く諦めて、次の夢を探したほうがいいと、思ったから」

 訥々と未帆乃が理由を述べる。ありふれた答えながらも合理的で、一応の納得はいく内容だ。教室にいる生徒は誰一人として突っ込みはしない。
 しかし、明梨だけは心底つまらなさそうに息をつき、隣の翔子へと目をやった。

「じゃあ、アンタは?」
「え?」
「アンタも、8人のうちのひとりじゃん。なに自分は関係ないですみたいな顔してんの? なんで『諦めるべき』を選んだのか、早く言えって」

 明梨の高圧的な態度に、翔子は萎縮して目を伏せる。けれど、答えなければ多数決で吊し上げられるかもしれない。そんな考え故か、翔子はか細い声で「諦めたほうが、足踏みせずに前に進めると思ったから」と答えた。

「おもんな。もっとこう、いかにもヘイトを集めそうな理由で選んだ人いないわけ? 華奈、アンタは?」
「ええっ! あたし!? あたしは、諦めたほうが楽になると思ったから? 苦しいの嫌だし」

 いきなり名指しされた華奈は驚きつつもヘラヘラと笑って答える。

「あの、僕も羽山さんと、その、同じです……」

 明梨から苛立たしさを感じとったのか、気弱そうに縮こまっていた卓巳も理由を述べた。
 そんな彼に続いて、先ほど例題で名指しされた伸吾も「悪いけど、俺も一緒」と賛同し、ずっと成り行きを静観していた三友(みとも)真鈴(ますず)が、「私は波田さんに近い。努力だけじゃ夢は叶わないと思うから、ダメなら別の夢を探すほうがいい。ただ、それだけ」と淡々と理由を口にした。
 そして後には身長の高い二人の男子生徒、荒科理人と氷室木秀真が残った。

「なんなんだよ、これ……」

 そのうちのひとり、理人が呆然と呟く。

「どう考えてもおかしいって……。僕がなんで、こんな……」
「いいから、さっさとお前も答えろよ。じゃないと、多数決の候補に入れるよ?」

 明梨が舌打ちとともに急かす。理人は、髪を乱暴に掻きむしってから不愛想に答えた。

「そんなの、諦めるのが正しいからだよ。才能がないのなら、夢を叶えるのは困難を極める。潔く諦めるべきだ。みっともなく夢にしがみついてるなんて時間が勿体ないし、周囲にも大きな迷惑をかけている。その現実を見つめて、もっと有意義に時間を使うべきだからだ。諦め悪く才能のない夢にすがって生きているなんて、どう考えても間違っている。往生際が悪すぎるだろう。ただそれだけの、簡単な話だ」

 理人の声は早口で、自信に満ちていた。震えていた独り言とは違う、確かな意思がその背後にはあった。
 しかし、返ってそれが多数決のターゲットを見繕っていた明梨の琴線に触れたらしかった。曇っていた表情がみるみる綻んでいき、この場には似つかわしくない笑みを形作る。

「あは、いいね! てか、荒科ってそんなふうに喋るんだ。めっちゃ意外」
「……どういう意味?」
「べっつにー? 的屋や多谷みたく俺も僕もって追従するタイプだと思ってただけ~。……で? その独り善がりな意見、まあまあヘイト買ってそうだけど、そこんとこは大丈夫なわけ?」

 明梨が背後に佇む多数派の生徒を振り返る。いつの間にか、多数決の候補から外れた『諦めるべきではない』と回答した生徒が集まっていた。回答の際は死の恐怖に青ざめていた者も、自身が今回は死ぬべき人に選ばれないとわかったからか、ひそひそと近くの生徒と意見を交わしている。

「荒科、この状況でよく言えるな」
「あんなふうに考えるやつだったんだ」
「言ってることはわかるけど、言い方キツくない?」

 はっきりとは聞こえないひそひそとした声量。貶め、軽蔑する内容。訝しげな視線。そのどれもが、理人にとってはマイナスな、蔑むようなものだった。
 苦々し気に表情を歪ませ、何か言いかけようとした理人だったが、さすがにこれ以上はマズいと思ったのか口をつぐむ。

「ウチ的にはむしろ清々しくていいけどね〜。俺も僕もで無害装ってるヤツのほうがムカつくから。まあでも、みんな的にはアンタが最有力かな?」
「いや、僕は……」
「あー大丈夫。まだここに本命が残ってっから」

 明梨は意地悪そうに口元を吊り上げると、視線の先を理人から秀真へと向けた。

「ラスト、秀真はどうなの? 『諦めるべき』を選んだ理由」

 問いかけられた秀真は一瞬眉をひそめたが、すぐに余裕を含む表情に戻って肩をすくめてみせた。

「ああ。そんなの、大した理由じゃねーよ。ただ夢を追いかけるなら、才能のある夢を追いかけたほうがいいっつーか。ほら、そのほうがみんなハッピーだろ?」
「みんなって?」
「みんなはみんなだ。自分も、仲間も、家族も。そっちのほうが絶対いいだろ?」

 笑顔すら浮かべて秀真は言う。

「挑戦すること自体は悪いことじゃない。でも、挑戦した結果才能がないってなったなら、次の夢を探したほうが自分の気も楽だろうし、仲間も応援してくれるだろうし、家族も喜んでくれる。違うか?」

 さも当然とばかりの口ぶりだった。言い方は柔らかく、理人ほどの刺々しさはない。
 しかし、そこに違和感を覚えたらしい小柄な女子生徒、涼川(すずかわ)音(おと)が口を挟んだ。

「氷室木くん。それは、本人がまだ諦めたくないって思ってたとしても?」

 音は有名曲の弾き語りカバー動画で有名になった配信者だ。透明感のある声が特徴的であるがゆえにすぐに身バレし、本人も否定しないのでこの学校ではみんなの知るところとなっている。
 また、彼女が配信者になった経緯も、動画内で一度語ったことがあるのでかなり知られていた。

「私は、昔から歌を歌うのが好きだったけど、とにかく下手くそだった。だから、上手くなるためにいろんな歌手の真似をして、どうにか弾き語りカバーで配信ができるくらいにまでなれた。諦めたくなかったから、頑張ったの。氷室木くんは、そんな昔の私みたいな人を、否定するの?」
「いや、そういうわけじゃ」

 バツが悪そうに秀真は視線を逸らす。

「て、ていうか、涼川はそれだけ練習して上手くなってるんだから、歌い方が未熟だっただけで才能はあったんだって。そういう努力は必要だし、だから、全然否定してるとかじゃないんだって」

 さらに取って付けたような言い訳を秀真は並べた。音は、心底残念そうに首を横に振る。

「それは結果論だよ。結果が出てるから才能があったわけじゃない。少なくとも、私はそう思ってる」

 言い切ると、音はくるりと踵を返して多数派の生徒の輪の中へと戻っていく。

「は、は……? なんだよ、それ」

 冷たい視線が、秀真に集中していた。数分前に見えていた余裕は、既にその表情にはない。

「俺はべつに、夢に向かって頑張ってる人を否定するとか、そういうことを言ってるんじゃないからな? ただ単に、俺の考えとして、才能がないってなったなら、早めに切り替えて諦めるほうがみんなのためになるって……」
「なんで、自分のことより周りのことを優先して考えないといけないんだ?」

 音の次に秀真に問いをぶつけたのは、彼と同じバスケ部に所属する慶介だった。

「才能がないなら早めに辞めろ。それがみんなのためになる。……この言葉、前も言ってたよな、秀真」
「おい、慶介。お前、何言って」
「事実だろ? 秀真、夏の大会前にそう言って一年を二人退部に追い込んだだろ?」

 慶介が発した言葉に、その場の空気が一変した。絶句したような声が、先ほど秀真を詰めた音の口からも漏れる。

「俺、見てたんだ。用具庫にモップを取りに来た時に、秀真が一年を怒鳴りつけてるのを。ほとんど終わり際だったし、詳しい事情は知らないけど、最後にそう言ってたのを覚えてる」
「ち、違う! あれは発破をかけるために言っただけで、べつに本気で辞めさせたかったわけじゃない!」
「じゃあなんで、監督にあの二人をなるべく使わないようになんて進言したんだ? なんでモップ掛けの当番のほとんどをあの二人にやらせたんだ? なんで、コート練習であの二人にだけラフプレーを仕掛けたんだ? なんで……あの二人に、オーバーワークの練習を指示して怪我をさせたんだ!」

 悲痛な慶介の声が、教室に響いた。

「あんなの、発破でもなんでもない。ただの陰湿な嫌がらせだ。本心は本気で辞めさせたかったんだろ? 才能がないからって、チームに迷惑がかかるからって、一年の時に俺に言ってきたのも、そういうことなんだろ!?」

 あまりの剣幕に、秀真はたじろいだ。一歩、二歩と後退ったが、逃すまいとばかりに慶介は彼の胸倉を掴みにかかった。

「俺には、バスケの才能はなかった。小学校からやってるのに、たまに試合に出してもらうので精一杯だ。それでも、公式戦でスタメン出場して、部活の仲間と勝利を掴み取り続けて優勝したいって夢があった。そのために俺は頑張ってたし、中学から一緒にやってる秀真も、そのことは知ってくれてると思ってた。だから、あんな暴言を吐かれてもそれこそ発破をかけてくれてるんだって思って、なんとかやってこれたんだ。
 でも、違ったんだな。
 お前は俺にバスケ部を辞めてほしかった。違うか?」
「っ、ああ、そうだよ!」

 ほとんど反射的に秀真は叫ぶと、力任せに慶介の手を振り払った。体格差で分の悪い慶介は容易く尻餅をつく。

「俺には他人より恵まれた身長と体格、俊敏性があった。両親は共働きでお金もあったからトレーニングもジムでやれたし、有名なチームでプレーもできた。俺はお前に才能も実力も運も勝ってんだよ!
 にもかかわらず、お前は中二の時、俺に怪我をさせた。相変わらず補欠にもなれずにモップ掛けばっかりしてたお前の不注意で、俺はモップに足をとられて捻挫した。
 心底ウザかったよ! 才能がないくせに、夢だけはやたらと大きい。そのせいで……そんなお前がいたせいで、俺は怪我をして冬の大会に出られなかったんだ! お前が早く辞めていれば俺は怪我もしなかったし、冬の大会ももっと順調に勝ち進めていたはずなんだ!
 全部全部、才能のないお前がバスケを続けていたせいなんだよ!」

 一息に言い切って、秀真は肩で息をする。その眼は憎しみと怒りをはらんでいた。今にも殴りかかりそうなほどの形相で、慶介を睨んでいた。
 慶介は何も言わない。感情の読めない表情で、静かに秀真を見返していた。

「……で? 話は終わり?」

 静寂に耳が痛くなってきた頃、気怠げに明梨が問いかけてきた。空気に合わない間延びした声は、その場にいた何人かを我に返らせた。

「な、なあ、どう思う?」
「氷室木勝手すぎ。ただの八つ当たりじゃん」
「気持ちはわかるけどな」
「才能あれば何してもいいわけじゃないと思うけど」

 湧き返る意見の8割方は秀真を非難するものだった。騒ぎの渦中にいる秀真は、慶介を睨んだまま身じろぎひとつしない。

「じゃあ、多数決ってことで。投票候補は氷室木と荒科、波田ね。少数派が4名以上だから投票は挙手制で」
「ちょ、おい」
「なんで、私が……!」

 理人と未帆乃が抗議の声をあげたが、明梨は眼中にないとばかりに多数派生徒へと向き直って言った。

「死ぬべきなのは、波田だと思う人〜?」

 ひとり、明梨だけが手を上げる。それを見た未帆乃は苦々しげに明梨を睨んだが、安心が勝ったらしくそれ以上は何もしなかった。

「次、荒科が死ぬべきだと思う人〜?」

 今度は6人が手を上げた。袴木奏、凛堂瑠々花、宇川らら、浦戸(うらど)蓮(れん)、氷室木秀真、そして波田未帆乃だった。

「波田さんまで……なんで!」
「ごめん、荒科くん。ほんとに、ごめん……」

 未帆乃は床に座り込みながら頭を下げる。そんな彼女を、理人は悔しそうに見つめていた。

「あはっ、やっぱり偽善者だね〜委員長は。まあ、棄権はできないからそれでいいんだけど」

 楽しそうに明梨は身体を揺らしてから、パンと手を打った。

「じゃあ、ラスト。氷室木が死ぬべきだと、思う人〜?」

 一斉に手が上がった。
 手を上げていない人がいないか確認の意味もあって数えはするが、明らかに秀真への投票数が一番多かった。

「はい。では、氷室木に決定〜」

 淡々とした口調で明梨が告げる。
 秀真はそれでも、慶介を見据えていた。怒りのこもった、しかしどこか悔しさも垣間見えるような視線が注がれていた。

「……そうかよ」

 やがて彼はため息をつく。
 それは、全てを諦めたかのような、深く長いものだった。

「なんでいつも……俺だけなんだろうな」

 パシュ、と乾いた音が鳴った。秀真の手に巻かれた、リストバンドからだった。
 彼の呟きとほとんど重なるように鳴ったその音の直後、大きな秀真の身体がぐらついた。

「きゃあっ!」
「うわっ!」

 方々で悲鳴が上がる。
 彼は周囲にあった机や椅子に構うことなく、リノリウムの床に倒れ伏した。しばらくは指先や足が痙攣していたが、やがて秀真はそのまま動かなくなった。

「え、なに?」
「まさか、死んだ?」

 恐る恐るといった様子で、未帆乃が秀真に歩み寄る。徐に彼の口元に手を当て、「ひゃっ!」という短い悲鳴とともに後ろに飛び退いた。

「息、してない……っ」

 血を流しているわけではない。見た目には、数分前の秀真と相違ない。
 しかし、慶介へ怒りと憎しみの感情を向けていた時の秀真は、もはやこの世にいないのだ。

『以上で、質問1は終わりです』

 スピーカーから甲高い鐘の音が鳴る。と同時に、スクリーンには1回目の多数決が終わったことを告げる文字が表示された。そして。

『続いて、質問2に移ります。
 質問2 SNSにおいて、裏アカウントやサブアカウントは持つべきか?』

 無慈悲にも二つ目の問いかけが、白抜き文字で突きつけられていた。