それでは、多数決をとります。

【調査記録紙片・的屋卓巳】
 的屋卓巳は、直向きに画家になる夢を追っていた。画塾に通い、浪人覚悟で美大を目指していた。
 しかし、的屋卓巳の家には兄弟が多かった。そのためか、画塾費用をねん出するためにバイトをいくつもやりつつやりくりしていたようだった。
 同じ画塾に通っていた生徒曰く、彼の絵には常に迷いがあったのだという。
 魂を込めた絵を描かなければ、狭き門である美大には受からない。それは本人もわかっていたのだろうが、先生からの指摘でも直ることはなかった。
 彼のほとんど投稿のないSNSを遡ると、気になる一文があった。

『環境も、才能の一種なのかな』

 的屋卓巳のバイト先の人が言うには、日に日に集中力を無くし、どこか上の空でバイトをしていた日もあったらしい。おそらく、普段の学校にバイトの掛け持ち、画塾への通いと、多い兄弟の面倒という多重タスクが原因だと考えられる。
 結局、彼は月謝や画材、タブレットなんかのお金が足りず、仕事で忙しい親のカードをたまにくすね、使い込んでいた。
 今回の候補者の中では、やっていること自体は悪いが、根は悪い人ではないんだろう。要は、魔が差したというやつだ。
 それでも彼の言う通り、自身が置かれている環境そのものもまた、才能の醸成に関わってくるのは確かなのだろう。


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【調査記録紙片・宇川らら】
 宇川ららは、どこまでも「普通の女子高生」だった。
 両親の仲は良く、家庭環境は良好。勉強もそこそこでき、容姿も悪くなく、友達にも恵まれている。SNSにも自身の闇を窺わせるような投稿は一切なく、面白おかしい芸人の話や、プチプラコスメの話、学校であった話など実に他愛のないことで満ちていた。
 しかし、彼女はいじめによく加担していた。
 主犯ではない。主犯となる生徒の傍につき、一緒になって罵倒やら物を隠したりやらと実行に一役買っているようだった。
 一度、遠くから彼女がいじめを働いているのを見かけたことがある。
 宇川ららの表情には、一切の遠慮や罪悪感がなかった。これこそが「普通」とばかりに、一緒になって笑っていた。
 宇川ららは、疑問をもたないタイプの人種であるらしい。

 本当にそうだろうか?

 極限状態に堕としてみれば、何かわかるかもしれない。


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【調査記録紙片・荒科理人】
 荒科理人には行き過ぎた正義感があった。
 有名私立高校の教頭である厳格な父親は常に荒科理人を厳しくしつけ、徹底的に間違いを正していたらしい。調査の過程でその父親が書いた教育コラムがあったが、『自分自身が正しくあり、また相手に間違いがあれば徹底して正せ。それが教育だ』などという独善的な一文を書くような人だ。
 当然、そんなふうに教えられてきた荒科理人だったが、どうやら彼は自分の意見を伝えることが苦手だった。
 しかし、SNSであれば違った。荒科理人は、匿名であれば厳格な父を装うことができたようだ。
 SNSには間違ったことで溢れていた。頭が良かった荒科理人は片っ端からその間違いを指摘していった。間違っている者であれば容赦なく叩いてよいとするSNSの風潮から賛同者も多い。とにかくレスバをしかけ、徹底的に間違いを正していった。
 やがて、彼は自身の学校の生徒のうちに間違っている者を見つけ、その生徒のSNSを探し出して公然と吊るし上げた。その証拠となる隠し撮りも上げ、全員でその生徒を叩いた。

『間違いを正せば、丸をもらえる』
『堂々と間違っているやつらが、この世の中にはごまんと溢れている。そしてそういうやつらは、まるで自分が正しいのだと言わんばかりに大きな顔をしている。この世は、正すべきだ』
『間違っているのなら、正して教育をしなければいけない』
『やはり正義はあって然るべき。今日も世のため人のために間違いを正す』

 荒科理人は自分自身のアカウントで、そんな一文を投稿してしまうほどに正義を信じていた。
 自分自身が間違っていることなど、おそらく一ミリも疑っていないのだろう。

 思わず弱音をSNS上で吐いてしまった、追い込まれていた同級生にいきなり正論をぶつけに行くのだから。

(※やはり私は、コイツも許すことができない。)